「店舗運営委託契約書」のポイントとひな型を解説

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

飲食店、学習塾、エステ、サロン、ジムなどの「店舗」を経営されている事業者から、「店舗の運営を第三者に任せたいが、どのような契約書を締結したらよいか?」とのご相談を受けることが多々あります。

実際、ありがちな場面だと思うのですが、「店舗運営を第三者に委託する契約」にクローズアップして解説された書籍や記事等は意外と多くないように思われます。

そこで、これまでの自分自身の棚卸しの意味も兼ねて、「店舗運営委託契約書」を作成する上でのポイントやひな型となる条項例について解説してみたいと思います。

店舗運営の委託契約書についてお悩みの方にはきっと役に立つ内容になっていると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。

店舗運営委託契約の基礎知識

一口に店舗運営委託と言っても、運営者がどこまでの権限を持つのか、どこまで責任・リスクを負うのかについて、様々なパターンが想定されます。

このことを、「名義」「計算」という言葉を用いて説明したり契約書に定めたりすることがありますので、最初に紹介しておきます。(読み飛ばしていただいても特に問題ありません。)

「名義」は、店舗の運営を委託者と受託者のどちらの名義によって行うかという点です。
より具体的には、店舗の賃貸借契約、従業員との雇用契約、仕入などの店舗営業に関する契約などを、対外的にどちらの名義によって行うかによる区別のことを言います。契約書上は例えば、「本件店舗の営業は委託者の名義を用いて行う」などと表現され、この場合には委託者が対外的な営業主体として各種契約等を締結したり、各種届出を行うという意味になります。

これに対して「計算」は、主に対内的に、利益がどちらに帰属するかという意味で用いられます。
例えば、「本件店舗の営業は受託者の計算によって行う」と定めた場合、店舗営業に要する資金調達は受託者の責任によって行い、店舗営業により生じた売上も受託者に帰属するとともに、営業上生じる諸経費の支払いもその売上から支出されるといった運営形態を表します。

私がご相談を受けるケースでは、名義、計算のいずれも委託者帰属を前提とする契約、つまり、委託者が対外的な契約などの主体となるとともに、売上や利益/リスクも委託者に帰属し、受託者には店舗運営業務の対価として一定の報酬が支払われるという形態を採用することが多いです。

このような委託形態を「名義」「計算」という用語を用いて簡単に表現したものが以下の条項例です。

第X条(委託業務)
1. 委託者は受託者に対し、下記の店舗内における●●営業(以下「本件営業」という。)の運営を受託者に委託し、受託者はこれを受託する。
(所在地)●●県●●市……
(店舗名)●● ◆◆店
2. 本件営業は委託者の名義をもって、委託者の計算により行われるものとする。

以下では、主に上記のような運営形態を想定して契約書のポイントを解説します。

  • 逆に、受託者(運営者)側が営業主体となり、リスクも受託者が負担するというような場合には、「のれん分け」や「フランチャイズ」などの仕組みを用いた方が適しているケースが多いと思われます。フランチャイズ契約についてはこちらの記事で解説していますので、本記事と合わせて確認し、より実態に沿った契約方式を選択して頂ければと思います。

なお、本記事では店舗の運営を依頼する側を「委託者」、依頼を受けて運営を実施する側を「受託者」と呼称します。
いわゆる「オーナー」が委託者、「運営責任者」が受託者に該当すると考えて頂いて大丈夫です。

まずは「受託者に対して何を期待するか」を整理する

店舗運営委託契約書を作成・締結するにあたっては、まず「受託者に対して何を期待するか」を整理することから始めるのがお勧めです。

例えば、次のような事項が挙げられるのではないかと思います。

  • 決められた営業日・営業時間に確実に店舗を営業すること
  • 店舗スタッフへの教育や管理を徹底し、サービスを確実に提供すること
  • 収支状況など店舗の運営に関する事項を逐次報告し、適切な方策を協議の上で遂行すること
  • 万一クレームやトラブルが発生した際は誠実に対応し、情報共有すること
  • 売上の着服や商品の横流しなどの不正行為を防止すること

このように、受託者に対して何を期待するかを整理することにより、契約書を作成するにあたってどこに重点を置けばよいか、どのような条項が必要となりそうかが自ずと明らかになってきます。契約書の条項も、これらの整理した課題を解決することを意識しながら検討していけば、店舗運営をスムーズに進めていく上で非常に有用な契約書を作成することができます。

以下では、上記で挙げたような課題を意識しつつ、これらを解決できるような条項例を解説していきたいと思います。

店舗運営委託契約書のポイント

権限の分配に関する条項

上記で述べた「名義」あるいは「計算」といった用語は、それぞれの当事者の立場・役割をおおまかに捉える上では便利ですが、具体的な運営を進めていく上でのルール設定としては不十分です。

店舗の運営を実施していくにあたって、営業日や営業時間、販売する商品やサービス、メニュー等及びその価格などの基本的事項の決定権限がどちらに帰属するかを明確にしておく必要があります。
また、設備や備品の購入、各種システム等の導入、従業員の採用やその管理、材料等の仕入、広告宣伝等については、どちらの判断によって決定するかを明確にするとともに、その支出をどちらが負担するかも明確にしておかなければなりません。

この点、あくまでも営業の主体は委託者であり、委託者が店舗経営の最終的なリスクを負う形態を前提とすれば、基本的にすべての決定権限は委託者に帰属させたいと考えるのが通常かと思われます。私の経験上も、ベースとしてはこのような方針を取ることが多い印象です。

もっとも、「受託者に対して期待すること」の内容によって、受託者に与える権限の範囲も変わってくるはずです。また、日々の仕入れなど細かい事項まで委託者でなければ決定できないとすると、かえって円滑な店舗運営の妨げになってしまうかもしれません。

理想としては、委託者の承諾を必要とする事項、決められた予算の範囲内であれば受託者にて判断してよい事項、委託者への事後報告で足りる事項などに分けて細かく決めるのが最も確実な方法と言えます。

例えば、以下のような定め方をすることが考えられるでしょう。

第X条(事前承諾事項)
受託者は、以下に定める事項を行う場合は、委託者に対して通知の上、委託者の事前の承諾を得なければならない。
(1) 店舗の通常営業日・通常営業時間の変更
(2) 内装や備品、取扱商品、サービス内容の変更
(3) 取扱サービスや商品の価格の変更
(4) 店舗運営に供するシステムの導入、変更
(5) 店舗のスタッフの採用、賃金の決定・変更及びスタッフの解雇
(6) 別途協議の上で定める予算額を超える仕入、物品の購入または広告宣伝、キャンペーン
(7) ……
(X) その他店舗運営上重要な事項として委託者が指定する事項

第X条(事後報告事項)
受託者は、以下に定める事項が発生した場合は、委託者に対し、当該事項の発生後●●日以内に委託者に対して報告しなければならない。
(1) 店舗の臨時休業・臨時の営業時間変更
(2) 別途協議の上で定める予算額の範囲内における仕入、物品の購入または広告宣伝、キャンペーン
(3) 店舗スタッフのシフト決定、変更
(4) 解雇以外の事由による店舗のスタッフの退職
(5) ……
(X) その他店舗運営上必要な事項として委託者が報告を求める事項

第X条(経費負担)
本件営業に伴う諸経費は原則として委託者の負担とする。ただし、第X条(事前承諾事項)に反して委託者の事前の承諾を得ずに支出された経費及び本件営業に関連がないと委託者が認めた経費については、受託者の負担とする。

受託者にどこまでの権限を与えるか否かについては、円滑な店舗運営と様々なリスクの防止の必要性とを比較しつつ、慎重に決定しましょう。

もっとも、実際に運営を開始してみなければわからない点や、運営を進めていく中で運用変更すべき点も多々あるものと思われます。
したがって、すべてを最初の契約段階で決定し、契約書に明記することにこだわりすぎる必要はありません。重要な点のみ契約書で決定し、細かい点や変更すべき点は都度覚書やその他の方法(権限一覧表など)で共有する、などの方法でも十分でしょう。

ただし、後々言った言わないの問題が生じることを避けるためにも、少なくとも何らかの方法で記録に残すくらいは行うようにしたいところです。

受託者の責任

受託者に責任をもって店舗運営を実施してもらうために、受託者の義務として遵守すべき事項を明確にすることも重要です。

一般的には、店舗運営上の法令遵守クレームやトラブル発生時の対応などが受託者の義務として挙げられるでしょう。
また、店舗で勤務するスタッフへの教育や管理を徹底し、店舗営業やサービス提供に支障を来たさないようにすることや、委託者と随時情報共有し、運営方針等について協議することなどが受託者の重要な責務として期待される場合が多いと思われます。

例えば、契約書上では以下のような規定を置くことが考えられます。

第X条(委託業務の遂行)
1. 受託者は、善良な管理者の注意をもって本件営業の運営を遂行するものとし、法令に違反する行為、委託者の信用を傷つける行為その他不信用な行為を一切行ってはならない。
2. 本件営業の対象たる店舗の通常営業日、営業時間及び休業日は以下の通りとし、受託者はこれを遵守しなければならない。
  営業日:毎週●曜~●曜 10:00~17:00 休業日:毎週●曜
3. 受託者は、本件営業の遂行につき、下記の事項を遵守するものとする。
(1) 委託者と定期的にミーティング(最低月●回)を行い、運営について協議すること
(2) 委託者の指示に従い、店舗スタッフに適切な指導教育を行うこと
(3) ……
(X) その他本件営業の遂行につき委託者の指示があった場合これに従うこと

第X条(受託者の責任)
1. 受託者は、本件営業に関して適用される【食品衛生法、…】その他の法令を遵守するものとし、違反行為が生じないようにスタッフ等に対して適切に指導・監督を行う責任を負う。万一受託者またはスタッフ等が当該法令等に違反した場合、受託者は委託者と協議の上責任をもって事後措置を行うものとする。
2. 本件営業の遂行上顧客を含む第三者との間で事故、クレーム、不良品、健康被害、紛争等が発生した場合、受託者は直ちに委託者に当該事実を報告したうえ、双方協議の上対応策を策定し、これを実行しなければならない。なお、受託者の責めに帰すべき事由による紛争等については受託者が一切の責任をもって解決をし、委託者に影響を及ぼさないものとする。
3. 受託者が委託者への通知・連絡を遅滞したことにより委託者に損害を与えた場合や、本件営業の遂行に際し受託者の責めに帰すべき事由により委託者に損害を与えた場合、受託者は委託者に対し当該損害を賠償する義務を負う。

これらの点についても事案に応じて適切な条項を設定することが重要です。

万一受託者の業務遂行に問題があると判断した場合、是正要求や契約内容の変更・解除などを行うことになりますが、その際に、契約書上の根拠をもって違反行為を指摘できるのとそうでないのとでは、説得力が全く変わってきます。

「受託者に何を期待するのか」を整理して、必要な事項があればきちんと契約条項にも反映しておくようにしましょう。

売上・収支管理に関する条項

委託者に利益が帰属するという方式を採用する場合、売上金や収支の管理という大きな課題があります。

収支に関する情報を適切に把握することは、店舗の経営状況の把握や改善、撤退などの経営判断を行う上での前提条件となるものであり、受託者に対する報酬分配を行う上での基礎にもなります。
加えて、売上金の着服や商品の横流し、受託者の個人的な支出を店舗の経費として処理するなどの不正行為が生じるリスクに対しては、必ず対策を施しておきたいところです。

もちろん、防犯カメラの設置などの防犯対策を行うことは言うまでもなく重要ですが、売上金や収支の管理に関するルールをきちんと定めておき、それに基づいた運用を行うことも重要です。

この点について、最低限定めておきたいのは、「売上金の引継ぎ」「収支報告」に関するルールです。
加えて、これらの裏付けを確認し、不正行為が生じていないかをチェックするための手段として、「監査権限」を明確にすることも極めて重要です。

具体的には、次のような条項を設定することが考えられます。

第X条(売上金の管理及び収支報告) 
1. 受託者は、本件営業の遂行に関して顧客等から受領すべきサービス代金、商品代金その他一切の売上金(以下、総じて「売上金」という。)を責任をもって管理し、委託者の指定する方法に従って引継ぎをしなければならない。
2. 受託者は、本件営業に係る売上金及び経費支出について、●日ごとに集計して収支報告書を作成し、伝票類、領収証等委託者が指定する帳票類を添付したうえで、●日以内に委託者に対して提出しなければならない。
3. 前項に定めるほか、委託者が本件営業の売上金の管理状況、収支または店舗運営状況につき報告を求めた場合、受託者は遅滞なくこれに応じるものとする。

第X条(監査等)
1. 委託者は、本契約有効期間中、受託者へ事前に通知することなく本件営業の対象店舗の通常の営業時間内において、店舗への立入監査、伝票類、領収証、帳簿等本件営業の遂行に関連する書類の閲覧・複写・提出を求めることができ、受託者はこれを拒むことはできない。
2. 本条に基づく監査の結果、受託者が委託者に報告した収支または引き継いだ売上金の額が実態と異なることが判明した場合は、受託者は委託者の指示に従い、不足額を補填するなどの是正措置を速やかに行わなければならない。また、この場合、監査に要した費用(第三者への調査委託費用を含む。)は受託者の負担とする。

以上のように、売上金の引継ぎと収支報告を義務として明記するとともに、虚偽や不正確な報告を防ぐために、店舗内の監査を行うことができる旨を定めておくのが最もオーソドックスな収支管理方法だと思われます。

もっとも、この点は各種収支管理システムを用いるなど様々な管理方法が考えられるところです。
実態に即して適切な収支管理・共有方法を検討し、契約書上もこれに沿う条項を作成しておくことが重要です。

競業行為・店舗目的外使用等の禁止

基本的な遵守事項や収支報告義務のほか、受託者が委託者の利益に反する行為を行わないように適切な禁止事項を設定することが必要となります。

例えば、委託業務遂行によって得られたノウハウやスタッフ等を利用して受託者が競合事業を自ら開始してしまうようなケース(競業行為)や、店舗を使用して受託者が別の事業を兼業するケースなどが想定されます。

こういった不正行為を防止するためにも、契約書上禁止事項として明確に規定することが必要です。
場合によっては、不正行為への違約金を設定することを検討しても良いでしょう。

第X条(競業避止義務)
受託者は、本契約有効期間中及び終了後●年間、その名義・態様の如何を問わず、委託者の事前の書面による承諾なしに次の各号に掲げる行為を行ってはならない。なお、以下の各号はあくまでも例示であり、これらに該当しない競業行為を認める趣旨ではない。
(1) 自ら又は第三者をして、本件営業と競合又は類似並びにこれらのおそれがある事業を行うこと
(2) 自ら又は関連会社をして、前号の競合事業を営む事業者に出資し、またはその経営に参画すること
(3) 自ら又は関連会社の役員または従業員を第1号の競合事業を営む事業者の役員または従業員として従事させること。

第X条(店舗の目的外使用等)
受託者は、委託者の事前の書面による許可がない限り、本件営業の対象たる店舗を、本件営業以外の目的で使用してはならない。また、委託者の事前の書面による許可がない限り、受託者自身の名義により本件営業に属する取引を受注・販売するなど委託者に損害を与える可能性のある行為をしてはならない。

報酬分配

報酬分配については、主に受託者に定額の報酬を支払う方式と、店舗の売上または利益に応じて分配する方式のいずれか、あるいは両者を組み合わせた分配方式が採用されることが多いと思います。

売上や利益に応じた分配を行う場合、その算定基礎となる「売上」あるいは「利益」が何を指すのかを明確にしておく必要があります。

例えば、基本委託料(固定額)に、売上高を基準としたインセンティブを付与するという報酬形態を採用するケースでは、以下の条項例のように「売上高」が何を指すのかを明確に定義しておくことが最も確実な方法です。

第X条(委託料)
1. 委託者は、受託者による本件営業の運営業務に対する対価として、下記の算定式により計算された委託料を支払うものとする。
(1) 基本委託料 月額●万円及びこれに係る消費税
(2) インセンティブ 本件営業に係る毎月1日から末日までの間の基準売上高(本件営業に係る課税前の売上高を実現主義により把握した売上高を言う。)の●%に相当する金額及びこれに係る消費税
2. 委託者及び受託者は、毎月末日締めにて前項の委託料を双方で確認・集計の上、受託者は当該集計結果に基づき請求書を締日の属する月の翌月●日までに委託者へ送付し、委託者は受託者に対して、請求書受領月の末日までに、請求書記載の委託料を受託者の指定する金融機関の口座に振込送金の方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

「利益の●%を分配する」などの利益ベースの分配を採用する場合、何の経費を控除した金額をもって利益ととらえるのかを巡って食い違いが生じるおそれがあるため、上記に加えて、控除の対象となる経費についても明確に定めておくことが必要となります。

契約終了に関する条項

店舗運営を委託する場合、運営が思った通りにスムーズに進まないケースも想定されます。

例えば、店舗のスタッフを十分に確保できず休業が相次いだり、集客がうまくいかなかったりなどの理由で赤字となってしまうのは非常によくあるケースです。

このほかにも、様々な事情から「閉店・撤退」の判断を下さなければならない場面は付き物です。したがって、契約書上も「契約の終わらせ方」について明確に定めておくことが重要になってきます。

特に、店舗経営に関し最終的にリスクを負うのが委託者である場合は、委託者自身の判断・イニシアティブによって契約を終了させることができるとの規定を置いておきたいと考えるのが通常かと思われます。

一つ考えられるのは、「●ヶ月前に通知することにより契約を解約できる」という中途解約条項を設けることです。
しかし、この条項のみでは一方的過ぎるとして締結交渉時にネックとなったり、いざ契約を終了させたいときに受託者からの理解や協力が得られず、トラブルになってしまう可能性も想定されます。

そこで、有効な方策として考えられるのは、店舗の撤退を判断する具体的な基準を予め決めておくことです。

例えば、店舗の売上基準額や利益基準額を設定するのが最もわかりやすい方法です。具体的には、「売上基準月を1か月あたり●円とし、これを●ヶ月連続で下回った場合は契約終了とする」などと合意しておけば、撤退を巡るトラブルの防止に有効な場合が多いと思われます。
このほかにも、「店舗の休業が1か月あたり●日以上に達した場合」などの条件を設定することも考えられます。この点は店舗の運営方針等にあわせて、受託者とも協議の上適切な条件を決定しましょう。

  • 少し別の話になりますが、予め価格または算定方法を明記したうえで、受託者にて当該条件で対象店舗の買取(事業譲渡)を行うことにより契約を終了させることが可能と定めている契約書も目にすることがあります。受託者が将来的に独立を考えているというような場合には有効な取り決めです。

いずれにせよ、店舗の撤退を含めた「出口」を適切に設定しておくことは、安心して運営委託を行う上で非常に重要となりますので、慎重に検討しましょう。

以下、売上基準額などをもとに撤退を判断するケースを想定し、契約終了後の措置も含めた条項例を示しますのでご参考にしてください。

第X条(解約)
1. 委託者は、次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合、1ヶ月前に書面で通知することにより、本契約を解約することができるものとする。
(1) 本件営業に係る売上高が、双方の協議により定めた基準売上高に●ヶ月以上連続して達しなかった場合
(2) 委託者の事前の承諾なく、1ヶ月に●日以上休業した場合
(3) …
(X) その他前各号に準じる事態が発生し、受託者による本件営業の運営が不能と委託者が判断した場合
2. 委託者は、前項の解約により受託者に損害が生じた場合であっても、これを賠償する責任を負わない。

第X条(契約終了後の措置)
1. 終了原因の如何を問わず本契約が終了した場合、受託者は、委託者の指示に従って次の措置を実施しなければならない。
(1) 本件営業の運営を中止すること
(2) 委託者に対して負担するすべての債務を弁済すること
(3) 本件営業の対象店舗内の受託者所有の設備及び物品等を収去すること
(4) 本件営業の対象店舗及び店舗内の委託者所有の設備及び物品等を現状有姿にて存置して委託者に引き渡すこと
(5) 委託者からの貸与品をすべて返却し、または廃棄すること
2. 受託者が前項の措置を迅速に行わない場合、委託者は、受託者に代わって貸与品の返還、残置物の撤去等の必要な措置を執ることができる。この場合、受託者は残置物等の所有権その他の権利を放棄するものとし、これにかかる費用は受託者の負担とする。

  • なお、「契約期間満了」、「解除」、「中途解約」など契約終了に関する一般的な条項例とその解説は「業務委託契約書」の解説記事にて紹介していますので、合わせてご覧ください。

その他の注意点

その他、店舗運営委託に関連して問題となりがちな点につき、数点補足しておきます。

資金提供を伴う場合の注意点

どちらかの当事者(主に委託者)が、店舗の開業や運営に必要となる資金を相手方に提供するケースがあります。

この資金提供につき、後々、「返済義務があるか否か」を巡ってトラブルになることがよくあります。
店舗撤退時に、資金提供した側が「あれは融資だったから返済してほしい」と伝えたところ、「あれは出資だから返済する義務はない」と言われてしまう、というようなケースがその典型例です。

資金提供につきあまり細かいことを決めずにスタートしてしまうケースは非常に多いですが、後々激しいトラブルになる可能性をはらんでいます。
少なくとも、「返さなければならないお金」なのか「返さなくてもいいお金」なのかだけでも明確にして、契約書など記録にも残しておくことを強くお勧めします。

賃貸借契約における転貸禁止条項との関係

運営委託の対象となる店舗が賃貸物件である場合、その物件の賃貸借契約における「転貸禁止条項」に抵触する可能性があります。

そのため、賃貸借契約書の条項をよく確認し、事前承諾などの手続きが必要でないか等を事前にチェックしておく必要があります。

判断に迷う場合は、できれば余計なトラブルを招かないように事前に賃貸人や管理会社等の承諾を得ておいた方が良いでしょう。
少なくとも、店舗の運営責任者が誰かくらいは伝えておいた方が無難かと思います。

株主総会決議が必要となる場合があることに注意

運営委託が「事業の全部の経営の委任」に該当する場合、会社法467条1項4号により、運営を委託することにつき株主総会での決議を経ることが必要となります。

例えば、すべての店舗の運営を第三者に一任するというようなケースでは、この条項に該当する可能性が高いと言えます。

特に投資家等から出資を受けている企業であれば、本来株主総会決議が必要であるにも関わらずこれを行わなかった場合、株主から責任を問われたり、投資契約・株主間契約違反として投資の引揚げを要求されることも考えられます。

店舗運営委託が場合によっては株主総会決議事項に該当する可能性があることは頭の片隅には置いておいた方がよいでしょう。

まとめ

以上、店舗運営委託契約書のポイントを解説しました。

店舗運営を第三者に委託するにあたっては、後々のトラブルを防ぐためにも、当事者間で様々な条件を協議の上決定し、その内容を契約書として残しておくことが有効です。

そして、この記事がそのような協議を進めていく上で、少しでもヒントになればこれに勝る喜びはありません。

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