「スポンサー契約書」「協賛契約書」のポイントとひな型を解説

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

様々なイベント、プロジェクト、活動などを行っていく上で、資金をどのように調達するかは企業が常に直面する重要な課題です。

この点、イベントや活動等の資金調達の一手段として、「スポンサー」や「協賛企業」から「スポンサー料」「協賛金」を募るという方法があります。
近年、ベンチャー企業や中小企業においても、スポンサーからの協賛金等によって資金調達を行うケースが非常に増えているように思います。

しかし、スポンサー契約は、企業やイベントの名称、ロゴ、写真・肖像など様々な権利の使用許諾を伴う契約であるため、目的外や範囲外の利用など、権利関係を巡るトラブルに発展するリスクがあります。
また、イベントや活動の中止等によりスポンサーがスポンサーメリットを享受できなくなるケースや、当事者の法令違反や不祥事により炎上や信用低下が生じてしまうケースなどでは、スポンサー料の返金や損害賠償など大きなトラブルに発展してしまうリスクもあります。

そこで今回は、トラブルを防ぐために重要となる「スポンサー契約書」のポイントと、それを踏まえた条項例を解説していきたいと思います。

イベントやスポーツ等の活動を行うにあたってスポンサー制度の導入を考えている、あるいはすでに実施している個人、団体、企業はもちろん、スポンサーとして資金提供を打診されている企業側にとっても有益な内容になっていると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。

スポンサー契約・協賛契約とは

「スポンサー契約」には明確な定義があるわけではありません。
場合によっては、どのような形態かを問わず「資金を提供する人」を広く「スポンサー」と呼ぶようなケースもあります。

しかし、一般的には、個人、団体、企業がイベント、プロジェクト、あるいはスポーツ等の活動を行っていく上で、スポンサーがその活動を支援するために「スポンサー料」「協賛金」として資金を提供し、その見返りとして、活動の際にスポンサーの名称、ロゴ等を表示したり、イベント等に何らかの形で参加してもらうなどして、スポンサーのブランドの認知・露出やイメージの向上等のメリットを与えることを目的とした契約を指す場合が多いものと思われます。

したがって、スポンサー料など資金の提供と、イベントや活動等において、スポンサーの広告宣伝、イメージ向上を目的として与えられるスポンサーへの権利の付与(スポンサーメリットや協賛特典と呼ばれることが多い)が、スポンサー契約の本質的な要素であると言うことができます。

本記事でも、このような特徴を備える契約を「スポンサー契約」と定義することとします。
なお、「協賛」といった用語が用いられるケースもありますが、本質的な要素は共通しますので、本記事では特に区別せずに解説します。

スポンサー契約・協賛契約のポイント

上記のスポンサー契約の本質からもわかる通り、①スポンサー料についての定めと、②スポンサーになることによってスポンサーに具体的にどのような権利が与えられることになるのかを明確に規定しておくことが、スポンサー契約についての双方の認識の相違をなくし、トラブルを防ぐうえで最重要の事項となります。

また、広告宣伝等に伴い、イベントや活動等の主催者側、スポンサー側ともに、自己の名称やロゴ、写真、肖像などの使用を相手方に認めるケースが多いと思われます。したがって、③権利関係について、何を、どのような目的・方法・期間で使用することを認めるかについても明確にしておく必要があります。

そして、スポンサー契約における最大のリスク事項は、スポンサーが期待していたはずのメリットが得られなくなってしまうことです。
その要因としては主に、④イベントの中止や活動の停止等により、スポンサーの認知・露出の機会がなくなってしまうことが想定されます。また、⑤違法行為や不祥事が発覚した場合には、イメージ向上どころかかえってスポンサーのイメージが低下したり、炎上や不買運動などに発展してしまう可能性もあります。(⑤については、逆にスポンサー側による不祥事等によりイベント、活動へのイメージが低下する場合もあり得るので、双方にとって重要な事項です。)
このようなケースにおいて、当事者がどのような場合にどこまで責任を負うのか、あるいは負わないのかを中心に、どのように問題を解決するのかを定めておくことも非常に重要です。

以下、上記5つのポイントを中心に、トラブルを防ぐために抑えておきたいポイントと、それを解決するための条項例を解説していきたいと思います。

①スポンサー料・協賛金についての定め

スポンサー料の対象となるイベントや活動等、期間を明記したうえで、スポンサー料としていくらの金額をどのように支払うかを明確にする必要があります。

この点、スポンサー料をいくつかのランク(ゴールド、シルバー、ブロンズなど)に分け、上位のランクになるほどスポンサーに付与される特典・メリットがグレードアップするという方式を採用するケースが多いと思われます。

この場合には、申込書や別紙等においてスポンサーメリット・協賛権利を一覧にまとめ、ランクを選択したうえで申込みをしてもらう方法をとることがお勧めです。

以下、申込書においてランクを選択してもらうことを前提とした条項例です。実際の活動内容等に合わせて適宜修正したうえでご使用ください。

第X条(契約の趣旨)
本契約は、主催者が開催する下記のイベント(以下「本イベント」という。)において、協賛企業がスポンサーとして協賛を行う上で必要な事項を定めることを目的として締結される。
 イベントの名称:●●大会
 日程:●年●月●日開催予定
 会場:●●
 概要:……

第X条(契約期間)
本契約の有効期間は、●●年●月●日から●●年●月●日までとする。

第X条(スポンサー料)
1. 協賛企業は、主催者に対し、別途申込書において協賛企業が選択したスポンサーランクに応じたスポンサー料を支払うものとする。
2. 協賛企業は、本契約締結日を基準とし、当月末日までに、前項のスポンサー料を主催者が別途指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は協賛企業の負担とする。

②スポンサー・協賛メリットに関する定め

スポンサー料に対する見返りとしてスポンサー・協賛企業に付与される各種の権利(メリット)についても、双方で認識の相違がないように明確にしておく必要があります。

一般的なスポンサーメリットとしては、イベントや団体等のロゴ、名称などの使用許諾、イベント等の活動を通じた露出の機会の確保や広告宣伝への協力、イベント等への出演や招待などが挙げられます。その他にも、スポーツ選手・団体のユニフォーム等に協賛企業ロゴを掲出したり、イベントの名称や表彰(●●賞など)に協賛企業名を用いたりするなども、「スポンサー」に与えられる特典として想起される方が多いのではないでしょうか。

どのような特典を設定するかはイベントや活動の内容によっても異なるでしょうし、いかにスポンサー・協賛企業側にとって魅力的なメリットを提示できるかは、アイディアの発揮のしどころとも言えるでしょう。

ただし、協賛打診の際にはメリットの付与を約束しながら、その提供を忘れてしまう等の不手際があってはいけません。
スポンサーに対してどのようなメリットを提供するかは必ず一覧表を作成するなどして明示し、後日認識の相違が生じないように注意しましょう。

以下、①と同様に、申込書において協賛企業が選択したランクに応じてスポンサーメリットがグレードアップするという建付けを採用する場合の条項例と、簡易ですがランク・スポンサーメリットの一覧表の記載例を示します。

第X条(協賛に伴う権利)
1. 主催者は、協賛企業に対して、協賛企業が別途申込書において選択したスポンサーランクに応じて、別紙協賛権利一覧表に定める各種権利(以下「協賛特典」という。)を付与する。
2. 主催者は、協賛企業に対して、本契約に基づき、前項に定める協賛特典を提供するために必要な業務を遂行する責任を負う。

◆スポンサー料・スポンサー特典一覧記載例
以下のような表を作成し、契約書別紙として添付しておくとわかりやすいかと思います。
実際にスポンサーに付与する権利や提供するサービス等に合わせて適宜アレンジしてご利用ください。

ゴールドシルバーブロンズ
協賛金額●●●円●●●円●●●円
イベントロゴ・イベント名使用権ロゴ・名称使用可ロゴ・名称使用可名称のみ使用可
協賛企業名掲出
(イベントHP)
企業ロゴ(大)
トップページ
企業ロゴ(中)
スポンサー紹介ページ
企業名のみ(小)
スポンサー紹介ページ
協賛企業名拠出
(イベント当日映像)
企業ロゴ(大)
+企業PR映像
企業ロゴ(中)企業名のみ(小)
イベントご招待VIP席●●名分A席●●名分B席●●名分
キャンペーン・販売促進イベント記念キャンペーンを共同実施

③使用許諾(権利関係)に関する定め

②でも触れた通り、スポンサー契約に付随して、団体名、イベント名等の名称やロゴなどの各種権利の使用を許諾するケースが多いと思われます。

他方で、イベントや活動等のイメージの維持も重要であり、全く自由に使用を認めるというわけにもいかないでしょう。例えば、意図していない宣伝広告に利用されたり、無断でロゴを改変されたりするようなケースでは、イベントや活動等に対するイメージの低下につながる可能性があります。
また、例えば施設・イベントの模様を撮影した写真・動画や、個人や団体の肖像、キャラクターなどについては、別途コンテンツとして活用することが可能であり、スポンサーであっても無償での使用は許可できないと考えるケースも多いと思われます。

このように、どのコンテンツを、どの範囲・期間で、どのように使用することが可能かについて、ルールとしてスポンサー側に明確に示しておく必要があります。

この点、大規模な団体やイベント等、スポンサーの数が多数にわたる場合には、契約書とは別途に「ロゴマーク使用規定」などのルールブックを策定し、配布しているケースもあります。

しかし、スポンサー制度の導入の検討段階や導入直後では、どのようなルールが妥当か判断がつかないという場合も多いと思われます。

そこで、最初の段階では、協賛企業がコンテンツを使用する際には「事前の承諾(または通知)」が必要と定めておき、使用方法や範囲などについて都度判断できるようにしておくことが無難です。
そのうえで、スポンサー数が増加し、運用がある程度安定化した段階で上記のような「ルールブック」の策定に取り掛かるのが最も合理的かと思います。

以下、新たにスポンサー制度を導入することを想定し、主催者が事前に承諾した範囲でロゴ等の使用が可能と定めつつ、それ以外のコンテンツについては別途協議により使用条件・対価等を定めるとする場合の条項例を示します。

第X条(使用許諾)
1. 主催者は、協賛企業に対して、本契約期間中別紙協賛権利一覧表に定める範囲内において、本イベントの名称、ロゴ、商標等(以下「商標等」という。)を、協賛企業の広告及び宣伝を目的として、メディア· 媒体の形態を問わず使用する権利を授与する。但し、具体的な使用方法、内容等については、主催者による都度の事前の承諾を要する。
2. 協賛企業は、商標等が主催者に帰属することを確認し、商標等と同一若しくは類似する商標、記号、マーク等を自己の商号、ロゴ、ドメイン名、アカウント名として使用したり、又は自己を権利者とする商号、商標、ドメイン、アカウント名として登記、出願又は登録してはならない。また、協賛企業は、商標等の全部又は一部を改変し、若しくは商標等の信用を損なうような方法にて使用してはならない。
3. 本契約が理由の如何を問わず終了した場合または主催者からの要請があった場合、協賛企業はただちに商標等の使用を中止しなければならない。
4. 協賛企業が別紙協賛権利一覧表に定める以外の本イベントに関連するコンテンツ(写真、動画、キャラクター、肖像等を指すがこれらに限られない。)の使用を行う場合には、事前に主催者と具体的な使用方法、内容、対価等について協議の上決定しなければならないものとする。

④イベント・活動等の中止に関する定め

スポンサー契約は、イベント等の活動を通してスポンサーの名称、ロゴ等を表示するなどして、スポンサー側のブランドの認知・露出やイメージの向上等のメリットが生じることを期待して締結される契約です。
そのため、冒頭でも触れた通り、イベントや活動等の中止・休止等により、スポンサーの認知・露出の機会が失われてしまうことは、スポンサー契約において考慮すべき最大のリスクの一つと言えます。

したがって、このような事態に備えて、スポンサー料の返金等の対応を行うのか否か、行う場合にはどのような条件が適用されるかを事前に示しておくことは、後日のトラブルを防ぐために非常に重要です。

以下、一例として、天災や伝染病など不可抗力により協賛の対象となるイベントが開催できない場合、主催者側の判断によりイベントを中止できるとする一方で、スポンサー側は契約を解除し、双方協議の上で決定した金額によりスポンサー料の返還を求めることができるとする場合の条項例を紹介します。

第X条(本イベントの中止)
1. 主催者は、地震、台風、津波その他の天変地異、伝染病の蔓延、戦争、暴動、内乱その他主催者の責めに帰さない事由(以下「不可抗力」という。)により本イベントを実施することが不可能と認められる場合または実施することが困難な状態が●ヶ月以上継続することが見込まれる場合には、協賛企業に対して、本イベントの中止を申し入れることができ、相手方は合理的な理由がない限りこれを拒否することはできないものとする。
2. 前項により本イベントが中止された場合、協賛企業は、主催者に通知することにより、直ちに本契約を解除することができる。この場合において主催者は、本イベント中止時点までの主催者による協賛特典の提供の状況及び広報宣伝の効果等を勘案し、双方が誠実に協議の上で決定した金額によりスポンサー料の返還を実施するものとする。なお、主催者は協賛企業に対して、当該返還以外には損害賠償その他名目の如何を問わず一切の支払義務を負わないものとする。

この点、不可抗力以外の主催者側の責めに帰すべき事由によりイベント・活動等が中止となった場合は、主催者が契約違反をしたことになり、スポンサー料の返金に加えて損害賠償を請求される可能性があります。

したがって主催者側としては、イベントや活動の中止の要因となり得る不確定事由については、なるべく不可抗力に含まれる(責任を負わない)ものと定義したほうが望ましいと言えます。例えば、イベントであれば出演者の確保、スポーツであれば選手の負傷などが考えられるところです。
また、条項例では返金額は協議の上で決定するとしていますが、予め返金額または算定基準を明示しておけばより予測可能性を高めることができます。例えば、【スポンサー料の半額を上限として返還する】などと規定することも考えられますし、一定の期間中(1年間など)の活動を対象とするスポンサー契約であれば、活動中止までの日数に応じた日割り清算を行うと定めるのが合理的な場合が多いと思われます。

⑤違法行為・不祥事等(損害賠償)に関する定め

スポンサー契約は、個人・団体やイベントが有するイメージ好感度社会的意義などを前提に、それをスポンサーとして支援している協賛企業であるというステータスを獲得することにより、企業自身のイメージの向上にもつながるといったような狙いをもって締結される契約です。

そのため、違法行為や不祥事など、個人・団体やイベントが有するイメージや好感度等が著しく低下するような事象が発生・発覚した場合には、協賛企業のイメージにも大きな悪影響を及ぼす場合があります。
逆に、スポンサー側の不祥事等の発覚により、団体・主催者側のイメージが低下してしまうというケースもあり得ます。

もちろん、違法行為や不祥事がないように双方が適切に運営を行っていくべきことは言うまでもありませんが、他方で、このような事態に陥ってしまうリスクが全くないわけではありません。

相手方の違法行為・不祥事が発覚した場合、自身のイメージ悪化を防ぐために、直ちにスポンサー契約を解除することができるようにしておく必要があります。
また、場合によっては相手方に対して損害賠償などを求めることも必要となってくるでしょう。しかも、信用低下による損害は、事前に予測することが難しいという側面があります。例えば、「イベントを記念した製品展開を準備していたが、不祥事発覚により販売中止・在庫廃棄を余儀なくされた。製品開発や廃棄に要した費用を補償してもらいたい」などのようなケースでは、賠償額が極めて多額になってしまう可能性があります。

したがって、違法行為や不祥事等が発覚した場合の契約解除、責任の範囲等について規定しておくことは、双方にとって非常に重要です。

以下、比較的よく見られるケースとして、相手方に不祥事等が発覚した場合の契約解除権損害賠償請求権を明記しつつ、その範囲が広くなりすぎないように、専門家費用や逸失利益を含まず、スポンサー料の金額を上限とするという形で責任範囲を制限する場合の条項例を紹介します。

第X条(違法行為・不祥事等)
1. 主催者及び協賛企業は、相手方の社会的評価またはイメージを著しく害する違法行為、不祥事等(以下「不祥事等」という。)の発覚により、本契約の目的を達成することが不可能または著しく困難となり、または自己若しくは本イベントのイメージが著しく毀損されるおそれがある場合には、相手方に通知することにより、直ちに本契約を解除することができる。
2. 主催者及び協賛企業は、前項に基づき本契約を解除した場合であっても、相手方の不祥事等により損害(現実に生じた直接かつ通常の損害に限り、弁護士費用その他専門家費用及び逸失利益を含まない。)を被った場合、相手方に対して当該損害の賠償を請求することができるものとする。ただし、本項による損害賠償額は、本契約に定めるスポンサー料の総額を上限とする。

もしスポンサー側がさらに責任を限定したいと考えるのであれば、上限額をさらに低くしたり、④で紹介した条項例と同様に【受領したスポンサー料を返還し、それ以外には損害賠償などの責任を負わない】旨の条項例にすることも考えられます。もっとも、スポンサー側の理解を得られるかという問題はありますので、慎重に検討しましょう。

逆に、より確実に救済を受けられるようにしておきたい場合には、【専門家費用・逸失利益を含めたすべての損害について、上限なく賠償する責任を負う】旨の規定に修正することになります。あるいは、予め違約金額を定めておくことも有効な対策となるでしょう。

まとめ

以上のように、「スポンサー契約」「協賛契約」をスムーズに進めていくためには、①スポンサー料、②スポンサーに付与される特典、③ロゴ等の使用許諾の範囲、④イベント・活動の中止時の対処、⑤違法行為・不祥事への対処の5つのポイントを中心に、契約書条項を検討していくことが有効と考えます。

検討を行う上で、本記事が少しでもそのヒントや手がかりになることを願っております。

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