「コンテンツ制作委託契約書」のポイントとひな型を解説
こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。
企業にとって、様々なPR活動や情報発信が重要であることは言うまでもないことかと思います。
情報発信の際には、動画、グラフィック、音楽、テキストといった「コンテンツ」を利用することも多いと思います。
そして、そのコンテンツの制作を第三者に委託することも多いのではないでしょうか。
しかし、コンテンツの制作を外注する場合、イメージと沿わない成果物が提出されてしまう、権利関係や使用目的・範囲を巡ってトラブルになる、制作途中で契約が終了するなどのトラブルが生じるケースも珍しくありません。
そこで今回は、「コンテンツ制作委託契約書」のポイントと、それを踏まえた条項例を解説していきたいと思います。
コンテンツの制作を委託する上でどのような契約書を作成しておくことが必要かが理解できる内容になっていると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
制作業務の内容/成果物の仕様
コンテンツ制作委託契約は、『予め定められた仕様に従ってコンテンツを完成させ、納品してもらうこと』を目的とする契約です。
したがって、制作業務及び納品の対象となる、「完成させるべきコンテンツ(成果物)の内容や仕様」がどのようなものかを明確に定めることが必要となります。
この点については、契約書に付随する別紙などにより、「仕様書」により特定するケースが多いと思われます。
以下、契約条項では概括的な委託業務内容を記載したうえで、詳細な仕様等は別紙仕様書により定めるとする場合の条項例です。
第X条(制作委託)
1. 委託者は、受託者に対し、次の各号の業務(以下「委託業務」という。)を委託し、受託者は、これを受託する。
(1)【動画配信サイト『●●』上の委託者が運営するチャンネルで配信する動画】の制作業務
(2)●●業務
(3)その他前各号に付随・関連する一切の業務
2. 受託者は、別紙仕様書及び別途委託者が書面により指定した仕様等に従い成果物を作成するものとする。第X条(納品)
1. 成果物の納期は●●年●●月●●日とし、受託者は当該納期までに成果物を完成させた上、委託者に納品しなければならない。
2. 納品場所及び方法については、別紙仕様書に定める通りとする。
仕様書については、決まったフォーマットはありませんので、任意の内容で構いません。
ただし、「完成させるべきコンテンツの内容等を明確にする」目的で作成されるものであり、後日納品されたコンテンツを巡るトラブルが生じた際、契約に従ってコンテンツが制作されたと言えるか否かを判断する上での基準となる重要な書類です。
したがって、制作物の種別、制作の背景や趣旨、委託者側の利用目的や要望、予算や納期など受託者側の立場、制作に関与する業者や関係者との調整なども踏まえて、どのようなコンテンツの制作・利用が想定されているかを可能な限り明確に定めておく必要があります。
以下は、Youtube等動画配信サイトでアップロードする動画コンテンツの制作を委託することを想定した、仕様書の記載例です。
【仕様書記載例】
(1) タイトル・名称 『●●●』
(2) 企画概要 ・・・をコンセプトとした、出演者によるトーク形式の動画
(3) 数量等 1本あたり●分~●分の動画×●本分
(4) 納品方法 動画配信サイト『●●』でアップロード可能な形式の動画データの納品
(5) 納期及び検収 契約書第X条の定めに従う
(6) 利用期間及び利用目的 特に制限しない。また、委託者による本成果物の改変、編集及び他媒体での公開も可能とする。
(7) 委託料及び費用 契約書第X条の定めに従う
(8) 特記事項 動画の企画内容、構成、台本、スケジュール等については都度協議により決定する。
あくまでも簡易なモデルにすぎず、実際の作成にあたっては上記のような様々な考慮要素を踏まえて個別具体的に検討を行うことが重要であることは忘れないようにしてください。
また、どのような仕様書が自社にとって適切であるかは、事業者のノウハウの集積でもあります。
トラブルが発生した際には、「仕様書にどのように記載しておけばトラブルを防げたのか?」を検証し、今後は仕様書に反映するなど、アップデートも怠らないようにすることが重要と言えるでしょう。
- なお、継続的に制作の発注を行っていくことが想定される場合は、最初に「基本契約書」を締結した上で、個別の制作に関する仕様等は都度「発注書」等で定めるという方法が効果的です。このような契約方式は「業務委託契約書」の解説記事で紹介しています。
「イメージと合わない」時の対処
コンテンツ制作においては、「成果物がイメージと合わない」という問題がつきものです。
もちろん、前提として、成果物の仕様について可能な限り明確に合意をしておくことが重要であることは言うまでもありません。
また、事前に制作実績等を確認したうえで発注する、委託者側からイメージに近いコンテンツを事前に伝えておく、本格的な作業に入る前にラフ案やコンテによりすり合わせを行うなど、双方が綿密なコミュニケーションを取り、イメージの齟齬が発生しないように進めていくことも重要です。
しかし、「イメージしていたものと違う」という事態が発生してしまう可能性は、ゼロにはなりません。
この問題は、制作業務が完了したか否かを両者で確認する段階、契約書上では「検収」と呼称される場面で特に表面化することになります。
後述の通り、「検収」の完了は委託料の支払条件となっているケースも多いため、両者の利害が対立しがちな場面でもあります。
したがって、「検収」の条項について、自社の要望や許容範囲を慎重に検討したうえで、相手方とも十分に協議して決定しておくことが、「イメージと合わない問題」を解決する上で重要なポイントとなります。
具体的には、検収の期間や基準、修正の回数や範囲、費用の発生の有無などが決定すべきポイントとなります。
委託者側としては、「イメージと合うまで無償で修正・再制作を実施してもらうこと」が望ましい解決策でしょう。
そして、どうしてもイメージと沿わないのであれば、契約を解消することも視野に入れたいところかと思われます。
したがって、修正や再制作は無償かつ無制限、あくまでも委託者側の判断で合否を決定できるとすることが理想と言えます。
以下は、このような建付けを前提とした条項例です。
第X条(検収) ※委託者側有利
1. 委託者は、成果物の納入を受けた後●●日以内(以下「検査期間」という。)に、自己の定める検査基準に従い検査を行うものとし、検査に合格したときは、受託者に対して書面により(電磁的方法による場合を含む。)検査合格の通知を行い、これをもって検収完了とする。
2. 検査の結果、成果物が不合格となった場合又は委託業務が適正に遂行されていないことが判明した場合、委託者は、受託者に対して遅滞なくその旨を通知するものとする。
3. 前項の場合、受託者は、別途委託者が定める期間内に、自己の費用と責任において不合格の原因となった種類・品質・数量に関する契約内容の不適合その他不具合等を無償で補修又は代替品を納入し、又は業務の追完を行った上で再度検査を受けるものとし、以後同様とする。
他方、受託者側としては、「ある程度は妥協して納品を受け入れてもらうこと」が望ましいと思われます。
どうしても受け入れてもらうことができない場合には、「成果物に要求される注文は全て満たしているのだから、納品は完了している」と言える状態を作りたいところです。
したがって、修正等については、回数の上限を設けたり、『動画編集の修正は行うが、収録のやり直しは別料金とする』など修正内容の制限を加えておくことが望ましいでしょう(この点については、仕様書などにより詳しく記載する方がわかりやすい場合が多いと思います)。
また、成果物を不合格とする場合にはその理由の通知も必須とする、検査期間を設定し、『一定期間に具体的な理由を付した異議が出ない限り業務完了とみなす』といった条件も設定しておきたいところです。
以下、これらの建付けに沿った条項例を示します。
第X条(検収) ※受託者側有利
1. 委託者は、成果物の納入を受けた後●●日以内(以下「検査期間」という。)に、別途双方協議の上定める検査基準に従い検査を行うものとし、検査に合格したときは、受託者に対して書面により(電磁的方法による場合を含む。)検査合格の通知を行い、これをもって検収完了とする。
2. 検査の結果、成果物が不合格となった場合又は委託業務が適正に遂行されていないことが判明した場合 、委託者は、受託者に対して遅滞なく具体的理由を記載した不合格通知書を交付するものとする。
3. 前項の場合、受託者は、双方協議のうえ定めた期間内に、別紙仕様書に定める範囲内において、不合格の原因となった種類・品質・数量に関する契約内容の不適合の修正、追完を行った上で再度検査を受けるものとし、以後同様とする。
4. 検査期間内に、具体的理由を示した不合格通知が交付されなかった場合には、検査期間の経過をもって、成果物は検査に合格し又は委託業務が適正に遂行され完了したものとみなす。
どのような条項が自身に有利なのかを把握したうえで、相手方の立場や予算の問題なども踏まえ、どこまで妥協できるか、あるいはできないかを検討し、相手方と協議をして決定するようにしましょう。
もちろん、決定した内容を契約条項として明記することも忘れてはいけません。
委託料/経費
制作委託契約は「コンテンツを完成させること」を本質とする契約であるため、委託料もコンテンツの完成後、より正確に言えば、上記の『成果物の検収合格後』に支払うとするケースが一般的です。
委託料の金額については、事前に固定の委託料(制作料)が決定されるケースが多いですが、コンテンツの売上や再生数などの一定の指標に基づき算定されるとするケースもしばしば見られます。
また、制作に要する経費の負担についても、念のため明確にしておきましょう。
多くの場合は制作に要する経費を全て含めたうえで委託料が設定されると思われますが、出演料など委託料とは別途に費用が掛かると後から言われ、トラブルとなってしまうケースもあり得ます。
以下、事前に決定した委託料を成果物の検収合格後に支払う、経費はすべて委託料に含まれる(別途経費は発生しない)と定める場合の条項例です。
第X条(委託料等)
1. 委託者は、受託者に対し、成果物の検収完了の日が属する月の翌月末(当該期限の末日が金融機関の休業日にあたる場合、その前営業日)までに、委託料として金●●万円(税別)を、受託者が別途指定した銀行口座に振り込む方法により支払うものとする。振込手数料は委託者の負担とする。
2. 前項に定める委託料には、本件業務に係るすべての諸経費が含まれるものとする。
権利関係の処理
『成果物の権利がどちらに帰属するのか』は、実は意外と見落とされがちなポイントです。
というのも、コンテンツ制作委託や契約・法律に不慣れな場合、「お金を払って制作を依頼しているんだから、権利は当然こっちのものになるだろう」と認識されている方が結構いらっしゃるからです。
しかし、細かい議論は避けますが、コンテンツに生じる権利=「著作権」は、実際の制作作業(デザイン、ライティング、撮影、編集など)を行った側に帰属することとなっています。つまり、ほとんどのケースでは受託者側に著作権が帰属するということを、前提として認識しておく必要があります。
したがって、委託者側としては、完成したコンテンツの著作権等が委託者側に移転することが契約書上きちんと明記されているかについて、特に注意しなければなりません。
著作権などの権利は受託者側に残るとしつつ、委託者側は契約で定められた目的・範囲でのみコンテンツの使用を許諾されると定められるケースもありますが、やはり委託者側としては権利が移転すると定めておく方が望ましいでしょう。
いずれにせよ、もし契約書上に権利の移転または許諾が定められていなければ、コンテンツを別媒体や任意の時期に公開したり、コンテンツの編集や改変、二次的利用を行ったりするなど、自由にコンテンツを利用する上での妨げとなってしまう可能性があります。
したがって、権利の帰属についての規定はしっかりと作成、あるいは確認するようにしておきましょう。
また、コンテンツを公開するにあたって、第三者からの権利侵害等のクレームが発生することを防ぐために、成果物について第三者の権利を侵害していないことを保証する規定を設けておくことも効果的です。
かつ、万一第三者からの権利主張や紛争等が発生した場合の責任の所在を明確にしておくことも忘れないようにしておきましょう。
以下、著作権などの権利が委託者に移転することと、第三者の権利侵害がないことを受託者が保証することを内容とした条項例です。
第X条(知的財産権の帰属)
1. 本契約の履行に伴い受託者が制作した成果物に係る特許権、著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)その他一切の知的財産に関する権利は、全て権利の発生と同時に委託者に移転するものとする。なお、受託者から委託者に移転する著作権の対価は、委託者が受託者に支払う委託料に含まれるものとする。
2. 受託者は、委託者及び委託者の指定する第三者に対し、著作者人格権を行使しないものとする。第X条(第三者の知的財産権)
1. 受託者は、本件成果物の制作及び本件業務の遂行過程において、第三者の知的財産権、肖像権及びパブリシティその他一切の権利を侵害しないことを委託者に対し表明し、保証するものとする。
2. 成果物に関連して第三者の権利を侵害することその他の理由により、委託者又は受託者が第三者から何らかの請求、異議申立てを受け、又は訴訟が提起される等の紛争が生じたときは、受託者は、自らの責任と費用でこれを解決するものとし、委託者に何ら損害を及ぼさないものとする。また、この場合において、委託者が受託者の依頼の有無にかかわらず当該紛争の解決のために費用ないし損害を負担したときは、委託者は受託者に対して、その支払額全額を求償することができる。
契約終了(中途終了時の処理)
コンテンツの制作が完了し、代金も予定通りに支払われることによって契約終了となることが本来想定されるフローであり、この場合には特段大きな問題が生じることはないと思われます。
他方、何らかの原因により、コンテンツの完成・納品が未完了の段階で契約が終了する事態も考えられます。
また、納品が期日に間に合わない、納品されたコンテンツが仕様を満たしていないなどとして、契約が解除される事態も想定されます。
このような場合に備え、契約終了時の処理について定めておくことが必要となります。
この点については、①途中まで制作された成果物に対する委託料はどうするかという問題と、②コンテンツ制作が完了できないことにより当事者に生じる損害をどう処理するかという問題に分けて考えることができます。
①については、例えば『撮影・収録済みだが、編集が完了していない動画データ』がある場合、委託者としては編集作業を完了すれば完成したコンテンツとして利用することが可能となるという意味で、一定の利益を得ることとなります。したがって、撮影・収録に対応する委託料は支払われるべきであると言うのが通常の発想になるものと思われます。
このように、中途成果物により委託者がどの程度の利益を得ることとなるかを踏まえて委託料の一部を請求することができるとするのが最も公平な処理方法の一つです。そしてこれは、法律や裁判例の基本的な考え方とも沿う建付けとなります。
以下、この趣旨に沿った条項例を示します。
第X条(中途成果物の取扱い)
1. 本契約が成果物の完成前に終了した場合、委託者が要求する場合には、受託者は委託者に対し、中途成果物を引渡すものとする。
2. 前項の引渡しによって委託者が利益を受ける場合には、受託者は委託者に対し、委託者が受ける利益の割合に応じて委託料を請求することができるものとし、その具体的な金額については双方協議の上で定めるものとする。
②については、例えば納品が納期に間に合わなかったために公開などのスケジュールの変更を余儀なくされ、追加で作業や経費が発生した場合などが想定されます。場合によっては、プロジェクトそのものを断念せざるを得ず、それまでに費やした費用等が無駄になってしまうなどのケースもあり得るかもしれません。
委託者側としては、このような事態に備えて、納期に間に合わない場合には契約を解除し、委託者に生じた損害の賠償を請求できるようにしておく必要があります。
以下は、当該趣旨を反映した条項例です。
第X条(納入遅延等)
1. 受託者は、納期までに成果物の納入を完了することができない場合またはそのおそれがある場合、直ちに当該事実を委託者に通知しなければならない。
2. 前項の場合、委託者は受託者の帰責事由の有無にかかわらず、直ちに本契約を解除することができる。なお、当該解除は、委託者が受託者に対して成果物の納入遅延により生じた損害の賠償を請求することを妨げるものではない。
これに対し、受託者としては、多額の損害賠償義務を負うリスクは避けたいところです。
そのため、「明らかに受託者の責めに帰すべき事由がある場合に限り」などと追記して責任を負う場合を限定したり、「損害賠償の金額は委託料の総額を上限とする」など金額の上限規定を追記したりするなどの調整を求めていくことが考えられるでしょう。
- なお、契約解除や契約終了に関する一般的な規定については、業務委託契約書の記事で紹介しています。
まとめ
契約書の内容を検討していくうえで、本記事が少しでも参考なればとてもうれしいです。
ひいては、安心してスムーズに制作委託を進めていくことに役立てれば、これに勝る喜びはありません。
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