【起業家・経営者向け】裁判って、どんなことをするの?~支払ってもらえないお金を回収するまで~③

前回の続きです。

前回、前々回の記事はこちら

  ↓

裁判って、どんなことをするの?~支払ってもらえないお金を回収するまで~①

裁判って、どんなことをするの?~支払ってもらえないお金を回収するまで~②

 今回は、Xさん・Yさん双方の主張が出尽くし、いよいよ裁判所が判決を出すまでの流れについてご説明します。

裁判官はどうやって判断するの?

 お互いの主張のやり取りを通して、争点が明確になったら、次は、

裁判官が「どちらの言い分が正しいのか?」を判断する段階に移ります。

 今回のケースでは、XさんはYさんにお金を貸したのか、それともあげたのか、というのが争点でしたね。

 では、裁判官は、Xさん・Yさんのうちどちらの言い分が正しいのかは、どうやって判断するのでしょうか。

 これは結論から言うと、Xさん・Yさんがそれぞれ提出した「証拠」に基づいて判断します。

 Xさん、Yさんが「提出した」というのがミソです。

 どんなに価値のある証拠でも、裁判において提出できなければ、意味がありません。

 「あのときYさんは、200万円は必ず返すと言った」

 と、Xさんがいくら主張しても、裁判官はあまり心を動かしてくれません。

 Yさんが200万円を返すと言ったことを示す「証拠」、例えば200万円を返しますという内容が書かれた「契約書」や「借用証」などの「証拠」とともに示すことによって、はじめて裁判で意味のある主張になってきます。

 もっとも、Yさんが「200万円を返します」と話しているのを「録音」したデータだったり、あるいは場合によっては、Yさんから届いた「メールやLINE」のやり取りなんかも証拠になります。

 このように、裁判ではあらゆるものが「証拠」になり得ますので、契約書等がないからと言ってあきらめず、まずは「立証」のプロである弁護士にご相談ください。

 さて、「契約書」などの証拠に基づいて、「争点」につきどちらの言い分が正しいのか、裁判官が判断するわけですが、ほとんどのケースでは、判決の前に「証人尋問(しょうにんじんもん)」と言う手続が行われることになります。

 これは、XさんYさん本人や、今回の件のことを知っている証人などに、裁判所の法廷に出頭してもらって、裁判官の前で今回の件について話をする、というものです。

 この「証人尋問」が、裁判の決着を左右する大きなポイントの一つになりますので、次で詳しく流れを見ていきましょう。

「証人尋問」とは

今回は、まず①Xさん本人の尋問を行い、次に②Yさんの尋問を行うことになった、としましょう。

 証人尋問は、基本的には、Xさんが証言台の前に座り、横にいる味方の弁護士からXさんに質問し、Xさんが答えるという形で行われます。

 X弁護士 : 「あなたはYさんに200万円を貸したのですね。」

 Xさん   : 「はい、そうです。」

 X弁護士 : 「Yさんにお金を渡したとき、Yさんはなんと言っていたのでしょう?」

 Xさん   : 「ありがとう、必ず返すから、というふうに言っていました。」

 このように、X弁護士が質問し、Xさんが答える、という流れで進んでいきます。

 裁判官は、Xさんの話をじっと聞いています。


 X弁護士からの質問が終わったら、今度は、相手の弁護士からXさんに質問する、というターンがあります。

 当然、相手の弁護士からしたらXさんは敵ですから、Xさんの証言の矛盾点や、客観的な証拠と異なっている点をあぶり出したり、Yさん側に有利な証言を引き出すために、あの手この手でXさんを突いてきます。

 Y弁護士 : 「どうして、200万円を貸すときに契約書などを作らなかったのですか?」

 Xさん   : 「Yさんを信用していたからです。」

 Y弁護士 : 「その時は返ってこなくてもいいと思っていたからではないですか?」

 Xさん   : 「…」

 という流れで進んでいきます。

 Xさんが終わったら、次はYさん、というわけです。

 今度は、Yさんの味方の弁護士が質問するターンから始まり、それが終わったら、Xさん側の弁護士から質問をしていく、という流れですね。

 さて、この「証人尋問」というのは、弁護士の腕の見せ所であり、裁判の一番の山場といってよいと思います。

 こちらの言い分が正しいと裁判官に分かってもらえるように、当方の話の内容・順番を工夫して聞き出しながら、

 逆に相手が証言するときには、Yさんの言い分が間違っていることを明らかにするために、矛盾点などを徹底的に突いていきます。

 そして裁判官は、これまでに双方が提出した証拠と照らし合わせながら、
どちらの言い分が正しいか=「心証(しんしょう)」を定めます。

 今回のケースでは、平成31年6月21日に証人尋問が開催され、Xさん・Yさんがそれぞれ言い分を述べました。

 これであとは、判決を待つのみです。

 今回は、平成31年7月26日が判決期日と定められました。

判決のとき

 平成31年7月26日、法廷にて、判決が言い渡されました。

 結果は、無事Xさんの主張が認められ、Xさんの勝訴(請求認容)となりました。

 ちなみに判決の言い渡しは、「主文(しゅぶん)」と言って、Xさんの請求を認めるかどうかという結論だけ読み上げて、それでおしまいです。

 どういう理由で請求を認めたか、認めなかったかというのは、判決書の中に詳しく書かれており、これを読んでみないとわかりません。

 書面で始まり書面で終わる、って感じですね。

 
 ともあれ、Xさんとしては、これで、とりあえずは一安心です。

判決までにかかった時間

 さてさて、ここで、Yさんからお金を返してもらうべく、Xさんが訴訟を起こしたときのことを振り返ってみましょう。

 訴訟を起こしたのは、11月のことでした。

 判決が出たのは翌年の7月ですから、訴訟を起こしてから判決が出るまで、8ケ月以上が経過しているということになります。

 どうでしょうか?

 やはり、「そんなに時間かかるのか…」といった感じでしょうか。

 実は、最高裁判所が、1つの案件が終わるまで平均どのくらいの期間かかっているか、というのをまとめた資料を公表しています(裁判所HP「裁判の迅速化に係る検証結果の公表(第7回)について」参照)。

 これによれば、直近の平成28年は、民事訴訟の審理に
 

 「平均8.6ケ月」
 

 掛かったというデータが出ています。

 今回のケースは、これでもちょうど平均くらいの期間で終わっているということです。

 もちろん、「裁判を迅速化しよう」という取り組みはずっと行われています。
 実際、上のデータによれば、最盛期?である昭和48年頃は、「平均17.3ケ月」もかかっていたようです。その頃から考えれば、格段に裁判は迅速化したと言えるでしょう。

 とはいえ、現在においては、「民事訴訟」を利用して権利を実現しようと思うと、第1審だけで「平均8.6ケ月」もかかってしまうリスクがある、というのが現実です。

 第1審だけ、というのは、訴訟に敗れた当事者は、その判決を不服として「控訴(こうそ)」をする権利があります。
 控訴をされると、今度は高等裁判所にステージを移して戦うということになり、更に時間がかかります。

 さらにさらに、「判決」というのは、裁判所がXさんの権利に「お墨付き」を与えてくれた、というだけにすぎません。

 実際にYさんが判決通りにお金を払ってくれるか、というのはまた別のお話です。

 もし払ってくれなければ、今度はYさんの財産の「差押え」などを行って回収しなければなりません。
 これは民事訴訟とは別の手続であり、改めて書類をそろえて裁判所に出して…、と進めなければなりません。

 このように、「裁判」で権利を実現しようと思うと、どうしても時間がかかってしまうのです。

判決のとき

 平成31年7月26日、法廷にて、判決が言い渡されました。

 結果は、無事Xさんの主張が認められ、Xさんの勝訴(請求認容)となりました。

 ちなみに判決の言い渡しは、「主文(しゅぶん)」と言って、Xさんの請求を認めるかどうかという結論だけ読み上げて、それでおしまいです。

 どういう理由で請求を認めたか、認めなかったかというのは、判決書の中に詳しく書かれており、これを読んでみないとわかりません。

 書面で始まり書面で終わる、って感じですね。

 
 ともあれ、Xさんとしては、これで、とりあえずは一安心です。

「備えあれば憂いなし」という話

このように、「裁判(民事訴訟)」は、「お金を払ってもらう」などの権利を実現するための最後の砦ですが、判決(お墨付き)を獲得するだけでも、かなりの時間が掛かってしまうリスクを孕んでいます。


 もちろん、これだけの時間がかかる作業ですので、裁判を弁護士に依頼すれば、それなりに弁護士費用も掛かってしまいます。

 その契約、取引、約束は、本当に大丈夫ですか?
 取引先や顧客が、約束の支払をしなかったとき、何か担保になるものはありますか?
 

 そもそも、裁判をやるとしても、勝てるだけの証拠はそろっていますか?

 できることなら、可能な限り裁判なんて起こさなくてもいいように、リスクヘッジを心掛けたいですよね。

 そのためには、やはり、日頃から、

 取引・約束の内容を書面で残しておく。
 その書面の内容が自分に不利にならないように、条項・文言にも注意する。
 大きい金額の取引や貸付なら、事前に担保を取ったり、保証人を付けてもらうことも考えておく。

 そして、これらがきちんと法律的に意味のあるものになっているか、専門家のチェックを受けておくことが大事です。
 

 「備えあれば憂いなし」、ですね。

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