【経営者向け】なぜ、「契約書」が必要なのかという話。

 「別にもめることなんてないし、契約書なんていらないでしょ。」

 「手間もかかるし、面倒くさい。」

と、仰る経営者様は珍しくありません。

 確かに、本当に「もめることがない」ならば、契約書など必要ないかもしれません。

 実際、大半の契約は、特に問題なく実行され、代金が支払われて、その役目を終えるということも多いでしょう。

 しかし、結論から言えば、ビジネスにおいて、顧客、取引先、提携先・パートナー、ひいては従業員や委託先など、「他者」と関わるときには、必ず「契約書」を作成しておくことが、様々な観点からみて有効なリスクヘッジになります。

 今回は、なぜ「契約書」を作るべきなのか、契約を巡る「法律」や「裁判所」の基本的な考え方にも触れつつ、ご紹介していきたいと思います。

1.法律で作成が義務付けられていることも

 そもそも、業種や取引の内容によっては、契約書を作成することが法律で義務付けられていることも多いです。

 例えば、我々弁護士は、事件の処理をお引き受けするにあたって、クライアントと「委任契約書」を作成することを義務付けられています。もし弁護士が正当な理由なく委任契約書の作成を怠った場合、「懲戒処分」を受けることもあります。

 このように、そもそも法律で契約書作成が義務づけられていないか、怠るとどのような不利益をこうむるかという点は、まず確認しておくべき事柄です。

2.契約書はいざというときの最強の「証拠」になる 

 ところで、これまで、当たり前のように「契約」と言ってきましたが、そもそも「契約」とは何でしょうか。

 色々な定義づけがありますが、契約というのは、ある人とある人との間で、「権利」と「義務」を発生させるために行われる「約束」です。

 例えば、あなたが顧客から、「この商品を、〇月△日までに、××の場所に納品してね。代金は10万円ね。」という依頼を受け、これを受注したとします。

 これを分解すると、あなたは顧客に対して、商品を指定された期日・場所に納品するという「義務」を負うことになり、その対価として、代金10万円を支払ってもらえるという「権利」を得ることになるわけです。

 ちなみに、「顧客」の側から見れば、権利と義務が裏返しになります。顧客はあなたに対して商品を納品してもらう「権利」を得て、代金を支払う「義務」 を負うことになる、というわけですね。

 このように、「権利と義務」を発生させるために行われる約束のことを、「契約」と呼びます。

 これを逆に言うと、相手方に何かを請求する権利というのは、「契約」があるからこそ認められる、ということです(もちろん、契約以外の根拠でも権利が発生することはあります。交通事故による損害賠償請求権などがその代表例です)。

 そのため、 「民事訴訟」、つまり「裁判」などを使って、相手の義務を果たさせるためには、その原因となる「契約」が存在しているということを裁判所に証明しなければならないのです。

 例えば、あなたが顧客に対して代金10万円を求める「権利」を実現するためには、「権利の根拠」=「10万円支払ってもらえる権利が発生することを約束したこと」=「契約が成立したこと」を証明しなければなりません。

 そして、裁判において、「契約が成立したこと」を証明するために、何よりも有効な証拠となるのが「契約書」である、ということです。

 裏返して言えば、「契約書を作った方がいいのか」を考えるのであれば、まずその取引・契約によってあなたが相手に対して求めることになる「権利」は何か、を考えればいいわけです。
 次に、ふと立ち返って、最悪のケースを想定してみましょう。

 例えば、せっかくあなたが義務を果たしたのに、相手が約束を反故にして、お金を払って来なかった、と想定してみてください。このとき、「契約書」なしで、あなたが相手に対して「権利」を持っていることを証明するだけの材料があるか?ということです。

 その材料がない、あるいは不安というのであれば、面倒でも「契約書」できちんと双方の権利・義務を明確にしておくことが、最も有効なリスクヘッジになります。

 〇 代金が支払われないときの回収方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください)。

3.「契約書」はトラブルの時の「ルールブック」になる

 1回きりの取引で終わる契約ならともかく、継続的に商品・サービスを提供する契約や、規模・金額の大きい契約だと、その間に色々なことが起こってくるものです。

 商品に不具合があったとき、どうなるか。そもそも、どういう状態を不具合というのか。サービスなら、どの程度のサービスを提供していれば契約を果たしたと言えるのか、顧客が望んだ成果が出なかったときはどうなるか。

 あるいは、予期せぬ事情によって商品の引き渡しやサービスの提供が遅れた場合、どちらが責任を負うのか。

 代金はいつまでに支払うのか。キャンセル・中途解約が発生するとどうなるのか。あるいは、単価・料金の変更が必要になった時、どういう場合であれば増減額が可能なのか。

 そして、どちらか一方が契約に違反したり、商品・ノウハウ・営業秘密などを勝手に使用されたときはどうなるのか。

 「トラブル」というのは、突き詰めれば「双方の認識が異なる」ことによって発生します。

 契約を締結する前に、上記のような事態など、考えられる色々な事態を想定してみてください。

 その時に、あなたとあなたの顧客・取引先の認識は、間違いなく同じだと言えるでしょうか?

 そうでないならば、その「契約」には、紛争のリスクが潜んでいるということです。 

 もちろん、「契約」は「交渉」でもあるので、こちらの手の内をすべてさらすというわけにはいかないこともあるでしょうし、細かいことを言うのはどうも…というときもあるでしょう。

 しかし、せっかく契約にこぎつけたのに、その契約を巡って紛争が発生したのでは、元も子もありません。

 「紛争のリスク」をできるだけ回避するためには、契約書を作成して、どういうルールで契約を運用するのかをきちんと定めておくことが大切です。

 そうしておけば、お互いが手元に「ルールブック」を持っていることになり、それそれがどのように行動すればよいのかが分かるので、トラブルを未然に防ぐことも可能ですし、万一トラブルが発生してしまっても、早期かつ穏便に解決できるようになります。

4.最後に

 長々とお読みいただき、誠にありがとうございます。

 なぜ「契約書」を作成すべきなのか、少しでもお伝えすることができたのであれば幸いです。

 日々、忙しくお仕事をこなさなければならない経営者の方にとっては、「いちいち契約書なんて見てられるか!」という方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、「契約書」というのは、実は非常に奥深く、そしてとても難しいものです。

 お困りの際や、ちょっとしたお悩みでも、ぜひ一度ご相談ください。

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