「ネット広告代理店契約書」のポイントとひな型を解説【WEBマーケティング会社・ネット広告代理店向け】

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

今回は、「ネット広告代理店契約書」のポイントを解説していきたいと思います。

ネット広告代理店を起業したが、契約書をどうすればいいのかわからないという方、普段広告主から提示される契約書を締結することが多いが、どのあたりがポイントなのかイマイチわからないという方、すでに自社で使用している契約書ひな型を見直したいという方など、ネット広告代理店の契約業務に関わる方はぜひ最後までご覧下さい。

ネット広告代理店とは?

この記事では、ネット広告代理店とは、クライアント企業(広告主)からの依頼により、インターネット上での広告の出稿や管理、最適化等の業務を代行する事業者を言います。
具体的には、リスティング広告(Google等)やSNS広告動画広告等を中心に、広告戦略の立案、出稿先・セグメント・キーワード等の設定、広告やLP等の制作、広告出稿・予算管理、広告の効果測定・最適化といった広告運用を、クライアントに代わって実施する企業です。

WEB広告代理店、広告運用代行、WEBマーケティング支援等、異なる名称が用いられる場合もありますが、本記事ではネット広告の運用を代行をする事業者・サービスを「ネット広告代理店」と統一します。

ネット広告代理店契約書とは?

ネット広告の運用代行を受託するに当たっては、受託する業務の範囲、報酬の算定基準や支払期限、広告費の負担等についてクライアントとの間で決定し、契約書を交わしておく必要があります。
このために締結する契約書を「ネット広告代理店契約書」と定義し、以下、ネット広告代理店契約書を作成するうえで重要なポイントを解説します。

やはり、業務委託契約書、広告運用業務委託契約書、広告取引契約書など、契約書のタイトルも様々な名称が用いられることがありますが、名称が違っても広告運用代行の受託を目的とする契約書であればポイントも共通します。

なお、ネット広告代理店側の立場から解説するため、基本的には代理店側に有利になるようなアドバイスが中心となります。
とは言え、あまりに一方的な内容ではクライアント企業から契約締結を拒否されることにも繋がりかねませんので、バランスも意識しつつ解説していきます。

ネット広告代理店契約書のポイント

ネット広告代理店契約書を作成・チェックするうえで特に注意しておきたいポイントは、次の5点です。

  • 提供サービスの範囲の定め方
  • 報酬や広告費の負担に関する条件が明記されているか?
  • 制作物や広告アカウントの権利の帰属
  • 自社がどこまで責任を負うか(あるいは負わないか)が明記されているか?
  • 契約期間や解除・解約に関する条項は明記されているか?

以下、それぞれにつき詳しく解説していきます。

提供サービスの範囲の定め方

ネット広告代理店契約書では、提供サービスの範囲を明確にすることがとにかく重要です。

ネットなどで入手できるひな型をそのまま流用しているのだと思われますが、受託業務に「広告の企画・制作・運用及びこれに付随する一切の業務」としか書いていない契約書をよく目にします。

しかし、これでは具体的にどこまでがサービスの範囲なのかがわかりません。

ただでさえネット広告代理店はクライアント企業からあれもこれもと作業を依頼されがちです。
本来の対応範囲を超えて、クリエイティブや記事の制作、サイトやLPの修正・制作、果ては見込顧客への対応まで、いわゆる「何でも屋」になってしまい、料金と全く割に合わなくなってしまった……というケースも見られます。

これを防ぐためにも、提供するサービスの範囲がどこまでなのかを明確にして契約書に明記するという作業がとても重要です。

とは言え、最初の契約締結段階では、具体的な広告運用の方針が決まっていないケースも多いと思われます。
また、最初はテスト運用をしてみて、その結果を踏まえて改めて広告戦略を立てるといったように、業務内容の随時変更が予定されているケースも多いでしょう。

こういった場合には、「基本契約書+都度発注書による個別契約方式」がお勧めです。

これは、契約締結段階では一般的な内容と実際の広告運用業務の発注方法を記載した「基本契約書」を締結しておき、具体的な業務内容、広告出稿先、予算、運用期間といった詳細は都度「発注書」を出してもらって決定するという方式です。
この方式を採用すると、「基本契約書」には詳細な事項を記載する必要がないため、他のクライアントと契約締結する際にもそのまま使い回すことが可能というメリットもあります。そのため、契約業務の効率化にもつながります。

この方式を採用する場合、基本契約書には以下のような条項を入れておきましょう。

第X条(個別契約の成立)
個別契約は、発注年月日、委託業務の件名、委託業務の内容、代金額、履行期・納期、納入方法、予算額及び広告運用費の清算方法等の必要事項を記載した発注書(電磁的方法を含む。書式の詳細は双方が協議の上決定する。以下同じ。)により発注し、受託者がこれを承諾することによって成立する。

「発注書」も別途書式を作成する必要があります。
発注書もひな型として使い回せた方が効率化につながるので、自社の提供サービスの内容やを踏まえて、どのような事項を記載する欄があると便利か専門家とも相談しながら作成するのがお勧めです。

報酬や広告費負担に関する条件

広告運用代行に対する報酬は、「広告運用費の●%」と定める方式(手数料方式)が一般的と言われています。

ただ、購入・登録・クリックなど、広告運用の結果得られた成果に対して、「成果1件あたり●円」と定める方式(成果報酬方式)も多く見られます。
成果報酬方式を採用する場合、どの地点をもって成果と扱うのか、対象者に関する条件を設定するか否かなどを決めておくことが重要になります。

加えて、広告制作など別途料金で対応する業務があれば、その旨もきちんと明記しておきましょう。

また、Googleなど広告媒体に支払う広告費の負担についても明確にしておく必要があります。
特に、いったん代理店が立て替えて支払いをし、後日クライアントに清算してもらう場合であれば、請求や支払の期日などを定めておく必要があります。広告費の上限額や、広告費支出は事前に同意が必要とする、広告運用状況等に関する報告書の提出が必要とするなどの条件を設定するかどうかは必ずクライアントに確認し、明記しておきましょう。
そうしないと後日、「このような広告費支出は許可していない」などと言われ広告費清算や報酬支払に応じてもらえないと言ったトラブルに繋がりかねません。

報酬や広告費負担に関するルールも、都度運用を変更したり、広告媒体ごとに取り扱いが異なるということも想定されます。
そのため、この点も詳細は「発注書」で決定する方式を採用することも有効です。

制作物・広告アカウントの権利帰属

広告やLPなどクリエイティブ制作を含む契約の場合、制作物の著作権がいずれの当事者に帰属するかが問題となります。

この点、制作物の著作権はクライアントに帰属(移転)すると定められるケースが多いです。
ただ、これもネットで入手できるひな型等を使い回しているのだと思われますが、「制作物その他業務遂行過程で生じた一切の成果物に関する著作権は、【クライアント側】に帰属する」というような内容になっている契約書を良く見かけます。これだと、納品した制作物に含まれるものは他の案件で使い回すことができなくなってしまいますので、せめて汎用的に使い回せる部分については著作権を残しておくのが望ましいと言えます。

もしクライアントに著作権を移転させる場合でも、汎用的な部分は使い回せるように、以下のような条項にするのがお勧めです。

第X条(著作権)
成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、委託料完済時に受託者より委託者へ移転する。ただし、受託者又は第三者が従前から保有していた部分に係る著作権及び汎用的に利用可能な部分に係る著作権は、受託者又は当該第三者に留保される

また、広告運用に用いるGoogle広告やSNS広告のアカウントの帰属も問題となります。これは、契約終了時にアカウントの処理をどうするかを巡ってトラブルになりやすいです。

どちらかが元から有しているアカウントを利用する場合は比較的問題になりにくいのですが、特に、運用代行用に新規にアカウントを開設する場合は注意が必要です。そのアカウントがどちらの所有なるのか、明確に決めておきましょう。
例えば、次のような条項を入れておくとよいでしょう。

第X条(広告アカウント)
新規に広告アカウントを作成して本件業務を遂行する場合、特段の合意がない限り、当該広告アカウントの所有権は受託者に帰属するものとする。

代理店の責任の範囲

クライアントとしては、当然ながら、アクセス数、売上の増加など、何らかの成果が得られることを期待して広告運用代行を依頼します。

しかし、クライアントが思った通りに結果が出るとは限りません。
特に、手数料方式を採用した場合、「広告費をかけたのに売上は上がってない。なのにさらに報酬まで支払わないといけないのか」といったクレームが出る可能性があります。

このほかにも、広告媒体での審査が通らない、広告の内容を巡って第三者とトラブルになる、広告内容が法令に違反しているなどの理由で社会的信用の低下が生じるなど、広告運用代行を巡って様々なリスクがあります。

これらをすべて代理店が負担していたら、事業そのものの存続にかかわります。

そこで、以下のような免責規定を入れておくことが必要となります。

第X条(免責等)
1. 委託者は、受託者に対し、本件業務に基づく一定の成果の発生の有無や程度にかかわらず、受託者に対する対価の支払い義務を一切免れないことを確認する。
2. 第三者から委託者又は受託者に対し、広告の内容に関し、権利の主張、異議、苦情、損害賠償請求等がなされた場合、受託者の責めに帰すべき事由に基づく場合を除いて、委託者の費用と責任においてこれを解決する

第X条(損害賠償)
委託者及び受託者は、相手方の責に帰すべき事由により損害(現実に生じた直接かつ通常の損害に限り、弁護士費用その他専門家費用及び逸失利益を含まない。)を被った場合、相手方に対して当該損害の賠償を請求することができるものとする。ただし、受託者が賠償すべき損害の範囲は、個別契約に定める委託料の額を上限とする。

こういった条項は代理店を守る重要な条項である反面、クライアントから修正要望が出されることも多いです。
そのため、どこまで修正・追記に応じるかをその都度検討する必要があります。

不利な条件を押し付けられないように、専門家に相談できる体制を整えたり、修正に応じる基準(レギュレーション)を作成しておくことが有効です。

契約期間・解除に関するルール

広告運用は効果が出るまでに時間がかかると言われています。
したがって、あまりに早期に解約されることがないように、契約期間をどのように決めるかも重要です。

例えば、「最低●ヶ月間は解約できない」という条項(解約禁止)を定めることも考えられます。
ただし、1年縛りなどあまりに長期に縛ると契約をしぶられることもあります。また、代理店側としても、相性が悪いクライアントや無理な要求をしてくるクライアントは、代理店側から解約を申し出たい場合も出てくるかもしれません。

そこで、基本的には1年契約+自動更新としつつ、事前に申し出れば解約可能というルールを定めるのが最も合理的で、なおかつバランスもとれているのではないかと思います。

具体的には次のような条項になります。

第X条(有効期間)
1. 本契約の有効期限は、契約締結の日から1年間とする。但し、期間満了の1か月前までに相手方より異議申し立てのない場合は、本契約は同一条件にてさらに1年間延長されるものとし、以後についても同様とする。
2. 本契約有効期間中であっても、委託者及び受託者は、●か月前までに相手方に対し書面をもって通知することにより、本契約を中途解約することができるものとする。(ただし、委託者は契約締結日から●ヶ月間を経過するまでの間は本項に基づく中途解約を行うことはできない。※最低期間を設ける場合)

まとめ

以上、ネット広告代理店契約書を作成するうえで特に注意しておきたいポイントを解説しました。

これらのポイントを踏まえて、当事者間で決定した内容を契約書に落とし込めば、後々のトラブルやクレームの予防に繋がると思います。

また、契約書ひな型の作成や先方の提示した契約書のチェック等、契約書に関する業務を効率よく回すための仕組みづくりについては、ベンチャー企業にとって必要最小限度の「ミニマル法務部」を立ち上げて運用するための方法を以下の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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