「ミニマル法務部」の作り方を解説【起業家/管理部門責任者向け】
こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。
突然ですが、あなたの会社では「契約書」のチェック、締結、管理はどのように行っていますか?
契約書に関して、このようなことでお悩みではありませんか?
・取引先と契約書と結ぶ機会が多くなり、管理部門責任者では対応しきれなくなってきた。
・ネットで拾ってきたひな型を使っているが、本当にこれでいいのか不安。
・契約書の作成を求められたが、どういう内容にしたらいいか全くわからない。
・トラブルが発生したが、取引先と認識が違ったり、自社に責任があると言われて困っている。
- 当事務所にご相談に来られた事業者様の具体的な課題感については、下記の記事もぜひチェックしてみてください。
今回は、社員が1人~数十人の事業者が「契約書」に関する業務を効率よく行うための、「ミニマル法務部の作り方」を解説します。
上記のような点で困っている、何とかしたいと悩んでおられるのであれば、きっと参考になると思います。
後から見返せるよう、ぜひこのページをブックマークしておいてください!
そもそも契約業務はなぜ必要なのか?課題を放置するとどうなる?
契約書の締結や管理といった業務は、それ自体が会社の売上や利益に直結するものではありません。
それどころか、「早く取引を進めたいのに足を引っ張る存在」のように、法務に対してマイナスな印象を持っている方がおられることも事実でしょう。
そのため、法務や契約業務の課題解決は、どうしても優先順位が低くなりがちです。
しかし、契約業務に関する課題を放置したままにしていると、以下のようなデメリットがあります。
- 失注リスク
商談が成立し、いざ正式契約の段階になったにもかかわらず、いつまでたっても契約書案を出せない、先方から出てきた契約書の確認が終了しないというのであれば、先方からの信頼を失ってしまいます。最悪の場合、せっかくの案件の失注にも繋がりかねません。 - トラブル・クレームリスク
契約書は、取引の相手方とトラブル、クレームが生じた際のルールになります。もし、契約書で「●●の場合は、【自社】が責任を負う」と書かれていたらその通りに責任を負わなければなりません。逆に、「責任を負わない」と書かれていれば負わなくてよいのです。いずれにしても、後から「やっぱりこれはおかしい」は通用しないのです。トラブルが起きた際に自社に有利に解決したいと考えるのであれば、契約書を締結する時が最初で最後のチャンスだと考えましょう。 - 紛失・期限遅延リスク
ベンチャーや小規模事業者にありがちなのが、「締結した契約書を管理できていない」ケースです。契約書はトラブルが起きた際にはルールになります。相手方と締結した契約書を紛失してしまった場合、有利に解決することは難しくなります。
また、契約更新や解除、所在地変更のために相手方への通知や承諾が必要だったりと、契約書の内容を管理できていないと対応ができない手続きも多々あります。契約を解約しようと思っていたのに通知期限を過ぎていた…なんてことがあっては、事業計画にも影響を及ぼしかねません。
これらのデメリット・リスクは決して軽視できるものではありません。
特に❷は、自社サービスの代金を回収できない、自社が損害賠償責任を負うなどの重大な損害に繋がるリスクです。
会社や事業を拡大し、メンバーや関係者が増えてきた段階でこのようなトラブルに巻き込まれてしまうと、事業の存続自体を揺るがしかねません。
法務はリスクヘッジとスピードの両立が必須
「法務」「契約審査」の目的は、上記のようなデメリット、リスクを排除し、自社の利益を最大化することにあります。
つまり、自社のリスクを可能な限り排除して自社に有利な契約条件にするという内容面の課題、内容面を担保しつつ、事業や取引に支障を起こさずに契約書を締結するというスピード面の課題、締結した契約書を管理するという管理面の課題を解決することが必要となります。
特に、内容面とスピード面を両立することはとても難しい課題です。
例えば、内容面については、弁護士に契約書作成、審査を依頼すれば担保することは可能でしょう。
しかし、弁護士に依頼した場合、コストもさることながら、非常に時間がかかります。特に、契約書作成や審査に慣れていない弁護士の場合、1ヶ月程度待たされることもあると聞きます。
- 顧問弁護士の費用や選ぶ際の注意点等については以下の記事でもまとめています。
かといって、契約審査業務を専業とする社員や社内弁護士を雇うとなると、それこそコストが馬鹿になりません。
これらをすべて解決するのが「ミニマル法務部」です。
詳しく解説していきましょう。
ミニマル法務部とは?
社員1名~数十名程度の事業者であれば、法務に関して優先的に解決すべき課題は「契約書」にまつわる課題です。
目指すべき状態を言語化すると、以下のようになります。
・リスクを減らし、自社利益を最大化する内容の契約書を締結する体制
・商談や取引に支障をきたさないようスピード感をもって作成・審査可能な体制
・どの企業とどの内容の契約を締結したかを常に閲覧、検索可能な仕組み
当事務所では、このような体制・仕組みを小規模事業者が持つべき必要最小限の法務部、つまり「ミニマル法務部」と定義しています。
上記のうち、
外注に回せるもの(内容の作成、審査)は当事務所に一括で外注
外注になじまない部分(電子契約など実際の締結フロー、社内決裁、管理等)は当事務所のアドバイスの下で最善の仕組みを作る
これが目指すべき状態の実現のための解決策であり、「ミニマル法務部の作り方」ということになります。
具体的なプロセスを見ていきましょう。
ミニマル法務部の作り方
自社ひな型の作成
自社の商品・サービスに関する契約書について、基本となる「自社ひな型」を作成することがスタートとなります。
ひな型を作っておくメリットは、自社に有利な契約条件にできることももちろんですが、商談~契約条件提示までのスピード短縮、各取引先ごとの契約条件の違いを最小限に抑えることができるなどもあり、いいことづくめです。
- 自社ひな型については、当事務所で特にご依頼の多い業種ごとに契約書のポイントをまとめていますので、ぜひご参照ください。随時更新予定ですので、見逃さないようにブックマークもお願いします!
このほか、よく使う契約書についても順次ひな型を準備していくといいでしょう。
例えば、人材紹介会社であれば、他社人材紹介会社との送客、提携(アライアンス)に関する契約書、WEBマーケティング会社であればWEB・コンテンツ制作契約書やフリーランス人材への業務委託契約書、FC本部事業者であれば加盟店紹介・開発業務の委託契約書などが結ぶ機会が多いと思われます。
相談窓口・チェック体制の確立
自社ひな型を作成すればすべて解決というわけにはいきません。
ひな型は当然自社に有利に作ることが多いため、取引先から修正や削除を求められることも多々あります。特に権利・責任の所在や契約解除、禁止事項といった重要なポイントほど、修正を求められることも多いです。
こういった場合に、どこまで修正を認めるか、認めない場合はどのように先方に説明すべきかにつき、リーガル面からの正確な意見がもらえる相談窓口が必要となります。
また、自社ひな型ではなく、取引先から提示された契約書を締結する場面も多々あります。
この場合には、先方から提示された契約書にリスクや不利な条項がないか、条項の修正を求めるべき点がないかなどにつき、やはりリーガル面から正確な意見をもらえる窓口が必要となるでしょう。
当事務所では、責任者、決裁権者等とLINEやChatwork等を利用してグループチャットを作成し、いつでも相談可能な窓口を提供することが可能です。
また、リーガルチェックも原則翌営業日までには完遂できるような体制を整えています。
この部分は法律や契約について高度な専門知識が求められますので、積極的にアウトソースを活用するのが最善です。
契約締結フローの整理
自社ひな型と内容審査体制が整ったら、実際の契約締結フローを整理します。
具体的には、どのような契約書の場合、どのような流れで、誰の判断で契約締結をするのかについて整理し、ルールとして策定します。
このルールをきちんと決めておかないと、担当者が勝手に契約書を締結したり、自社ひな型の不利な修正に応じてしまったりといった問題が発生するおそれがあります。
以下、一例をご紹介します。
・自社ひな型の場合…自社ひな型から変更なしの場合担当者判断で締結OK、修正要望が入った場合法務にて確認し、決裁権者の判断
・他社契約書…法務にてリーガルチェック後、決裁権者の判断、ただし●円以下の契約は決済不要
・締結OKの場合、原則として電子契約サービス(●●●)を使用して締結。書類確認先のメールアドレスは●●●@●●●とする。
このようなルールを決めて、関係者に周知しましょう。
最初の段階では、仰々しく社内規程のような形式にする必要はありません。
形式よりも、とにかくルールを知ってもらうことの方がはるかに重要です。
したがって、普段関係者が最もアクセスする社内グループチャットなどに記載しておくといった方法で十分です。
契約書管理ルールの統一
締結した契約書をどのように保管・管理するかについてもルールを統一しましょう。
特に、それぞれの担当者が契約書データを保管しているという会社は要注意です。
紛失・漏えいのおそれが高まってしまいますし、担当者が退職する際に契約書の引継ぎが全くうまく行かなかったというケースをかなり目にします。
結果、取引先との契約内容がわからずに取引先とトラブルになってしまう……、というのもよく聞く話です。
・電子契約で締結した契約書はすべて社内共有ドライブの「契約書」フォルダに保存する。
・ファイル名は「契約書名_相手方_締結日付」
このように保管先やタイトルを統一するだけでも、契約書管理はグッと効率がよく、紛失等も起きにくくなります。
ただし、取引先や顧客に関する情報は機密情報であり、個人情報が含まれる場合もあります。したがって、漏洩や目的外使用を防がなければなりません。
そこで、アクセス権の管理や、機密漏洩をしない旨の誓約書を社員から取得しておくなどの措置をとることも必要となります。
運用開始・改善
これで、契約締結~管理までのプロセスを整備することができました。
あとは実際に運用を開始し、さらに効率化を行っていきましょう。
例えば、自社ひな型を提案していると、相手方から頻繁に質問や修正要望が入る条項が出てきたりします。
その場合、「この条項について修正要望が入ったら、ここまでは現場判断で譲歩OKとする」というような基準を作っておけば、契約交渉がさらにスムーズになります(レギュレーションの作成)。
サービス内容の更新や運用変更に伴い、実態と契約書がズレてくる可能性もあります。その場合には、実態の変更にあわせて契約書ひな型も修正する必要があります(ひな型の更新)。
このほかにも、想定外のトラブルが発生したり、法改正等があった場合にも、やはり契約書ひな型の見直しが必要となります。
法務機能の拡充/縮小
業種やビジネスモデル、事業展開によっては、法務機能をさらに拡充していくことも必要となるでしょう。
例えば、模倣品の流通を防ぐために知的財産権を活用したいケース。
商標権を取得し、WEB上やECプラットフォーム等で権利侵害品が出回っていないか定期的に監視し、発見した場合は削除請求を行うなどの機能を拡充することが考えられます。
他にも、投資を受けて事業を拡大していくのであれば、株式発行・管理、株主総会の運営や各種ドキュメント作成・管理、登記申請業務、株主との契約の管理などの機能を持たせていくことになるでしょう。
顧問弁護士として継続的にかかわる弁護士がいれば、ビジネスの展開や拡大に応じて執るべき対策や仕組みづくりを適切に提案できますし、必要な部分は外注することも可能となります。
逆に、自社ひな型を用いた契約プロセスの効率化を進めた結果、当事務所への外注を必要としなくなるクライアント様も多々おられます。
そうなったら、内製化が完了したものとして顧問契約は解約・休止し、紛争発生時にのみ都度相談するといったように、かかわり方も随時変更して頂いてかまいません。
これこそがアウトソースを活用する大きなメリットです。
ぜひ、我々の知識・経験を活用して「ミニマル法務部」を立ち上げ、契約書や法務で失敗しないための体制を整えていってもらえれば、これに勝る喜びはありません!
よくある質問
ここからは、よくある質問とその回答をご紹介します。
リーガルテックを導入するのはどうでしょう?
リーガルテックとは、AIなどを活用した法務効率化ツールを指します。リーガルフォースなどの契約書審査AIツールなどがその代表例であり、これを導入するのはどうかと尋ねられることがあります。
当事務所も「GVA assist」という契約書審査ツールを導入していますので、リーガルテックの有用性はよく理解しているつもりです。
ただし、あくまでも最終判断を行うのは人なので、使いこなすにはある程度の法的知識がないと難しいと思います。
社員1名~数十名程度の段階ではおそらく法律に詳しい人材は中々いないと思いますので、リーガルテックを採用しても、持て余してしまう可能性が高いのではないでしょうか。
とはいえ、審査の漏れをなくしたり、スピードを高めるにはリーガルテックはぜひとも活用すべきです。
したがって、現段階では、「リーガルテックを導入している弁護士に依頼すること」が最適解と考えています。
弁護士に依頼するのはまだ早いでしょうか?
少なくとも、ここまでこの記事を読んだあなたなら、おそらく冒頭に掲げた課題をリアルなものと感じているはずです。
であれば、もうすでに弁護士に依頼するタイミングは来ているとお考え下さい。
社内の仕組みづくりやルール変更・統一は後回しにすればするほど大変になります。
また、契約を巡るトラブルがいつ起きてしまうかは予測不可能です。
契約書審査・締結フローをしっかりと整備できれば、数が増えてきても十分に対応できます。
それは事業拡大・組織拡大のためにもきっと役立つはずです。
ぜひ、早めに「法務」「契約業務」に関する課題に手を付け、解決することをお勧めします。
費用はどのくらいかかりますか?
当事務所では、リソースの限られた起業家/ベンチャー企業でもご利用頂き易いように、月定額で相談・依頼し放題というサブスクリプション形式を採用しております。
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