「秘密保持契約書」のポイントとひな型を解説

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

今回は、「秘密保持契約書」のポイントを解説していきたいと思います。

取引先から秘密保持契約書を結びたいと言われたが、どのあたりがポイントなのかイマイチわからないという方、秘密保持契約書のひな型を作成するにあたってどのような点に注意すればいいか知りたいという方など、秘密保持契約書でお悩みの方はぜひ最後までご覧下さい。

秘密保持契約書とは?

秘密保持契約書とは、ビジネスや取引において相手方と秘密情報を共有する際に、その秘密情報を外部に漏らしたり、目的外に使用することを禁止するために締結される契約書を言います。

英語の「Non-Disclosure Agreement」の頭文字をとって、「NDA」と呼ばれることもあります。

秘密保持契約書の目的とは?

秘密保持契約書は、相手方との正式契約に入る前の交渉段階・検討段階で開示する秘密情報の漏洩・目的外使用を防ぐために締結されることが一般的です。

なぜ、正式契約前に秘密保持契約書が必要なのでしょうか?

ほとんどの契約書には、「秘密情報を漏洩してはならない」という条項が含まれています。したがって、取引の正式契約が完了した以降はその契約書に定められている「秘密保持条項」を根拠として、秘密情報の漏洩禁止等を防止することができます。

しかし、正式契約に入る前の交渉段階、検討段階では、まだ相手方との間で何の契約書も締結されていないため、このような根拠となる契約がありません。

そこで、秘密情報の取扱いについて定めた「秘密保持契約書」を締結したうえで、双方が安心して情報を共有しようというのが最大の目的となります。

正式契約を締結する前に情報やノウハウを相手方に開示する場面が出てきた場合には、「秘密保持契約書が必要ではないか?」と考えるようにすれば間違いはないと思います。

秘密保持契約書のポイントは?

秘密保持契約書を作成するうえで特に注意しておきたいポイントは、次の4点です。

  • 秘密情報の定義、範囲
  • 漏洩、目的外使用の禁止
  • 禁止事項に違反した場合の罰則
  • 有効期間・契約終了後の措置

以下、詳しく解説していきます。

秘密情報の定義・範囲

先ほどから当たり前のように「秘密情報」という言葉を用いていますが、そもそも秘密情報とは何でしょうか?
どのような情報が秘密情報に当たるのでしょうか?

結論から言うと、秘密保持契約書における秘密情報の定義によって決まります。

つまり、当事者間で何を秘密情報として扱うかを合意しておき、それに該当する情報を秘密情報として扱うという建付けになります。

逆に言えば、どれだけ自社が機密だと考えていたとしても、契約書上の秘密情報の定義から外れていたら秘密情報として扱われず、漏洩に対して何も責任追及ができないという事態にもなりかねません。

ここは非常に重要なポイントなので、秘密保持契約書を作成・チェックするうえでは必ず意識して確認しましょう。

より具体化するために、「情報を開示する側」「情報提供を受ける側」それぞれの目線から、秘密情報の定義として一般的に用いられる条項を見ていきましょう。

定義例①:秘密情報=一切の情報とする定め方
本契約において秘密情報とは、開示者が受領者に対して開示する営業上又は技術上その他一切の情報及び受領者が知り得た一切の情報をいう

定義例②:秘密情報=秘密である旨を明示した情報とする定め方
本契約において秘密情報とは、開示者が受領者に対して開示する営業上又は技術上の情報のうち、秘密である旨を明示した情報をいう

定義例③:具体的な秘密情報を特定する定め方
本契約において秘密情報とは、開示者が受領者に対して開示する営業上又は技術上の情報のうち、以下の情報をいう。
(1) 顧客名簿、顧客データ
(2) …

感覚的に、①が最も秘密情報の範囲が広くなる定義、③が最も狭くなる定義で、②がその中間ということはお分かりいただけるかと思います。

実際には③の定義を用いることは手間がかかるためあまりありません。
① 一切の情報 か② 秘密である旨明示した情報 のいずれかが採用されているケースがほとんどです。

このうち、「情報を開示する側」の目線からすれば、開示する情報が漏れなく秘密情報として扱われるようにするためには、①の定義をとることが望ましいと言えます。

②の定義でも受け入れNGと言うほどではありませんが、「秘密である旨を明示」が条件となることは注意が必要です。具体的には、開示するドキュメントに「部外秘」「Confidencial」といった表記をタイトル・ヘッダーなどで明示すること、データにパスワードをかけること等が「秘密である旨を明示」に該当すると考えられています。
逆に、こういった措置を講じることなく情報を開示した場合、秘密情報からは外れると言われても文句が言えなくなってしまいます。開示する側の立場で②の定義を採用する場合には、開示の際の運用面を徹底する必要があることはよくよく意識しておいてください。

逆に、「情報提供を受ける側」の目線からすれば、②の定義の方がより有利ということになります。

実際にも、先方が提示した秘密保持契約書には①の定義が採用されていたが、②に修正するよう要望するという場面は多いです。

以上のように、秘密情報の定義をどのように定めるかは慎重に検討する必要があること、秘密情報の定義によって運用面にも違いが出てくることはしっかりと押さえておきましょう。

漏洩・目的外使用の禁止

秘密情報の取扱いのうち、中核となる事項を定める規定です。

第三者への開示・漏洩は最も防がなければならない事態と言えます。

以下のような条項を明記し、秘密情報を無断で漏洩してはならないことを明確にしておきましょう。

第X条(秘密保持義務)
1. 受領者は、開示者の事前の書面による承諾なく、秘密情報を第三者に開示又は漏えいしてはならない。
2. 受領者は、次の各号のいずれかに該当する場合、開示者の承諾なく秘密情報を開示することができるものとする。
(1)官公署若しくは法律の要請により開示する場合
(2)本目的のために必要最小限の自己の役員及び従業員(以下「従業員等」という。)に開示する場合
2. 受領者は、前項第1号の定めに従い秘密情報を開示する場合には、その旨を事前に開示者に対して通知するものとする。
3. 受領者は、第三者に秘密情報を開示する場合、当該第三者に本契約と同等の秘密保持義務を課すものとし、また、当該第三者の行為について連帯して責任を負うものとする。
4. 受領者は、従業員等に対し、本契約と同等の秘密保持義務を課すものとし、当該義務の違反につき、当該従業員等と連帯してその責任を負うものとする

第三者への開示以外にも、開示した顧客リストに営業をかけられてしまう、開示したプログラム、設計図、ノウハウ、仕入先方法を流用されてしまうなど、自己の利益のために秘密情報が流用されてしまうことも防ぐ必要があります。

そのためには、以下のような規定を設けることが必要です。

第X条(目的)
開示者は受領者に対して、●●を目的(以下「本目的」という。)として、秘密情報を開示する。
※目的の記載例:事業提携の検討、FC加盟の検討、業務委託の検討 など実態に即して記載しましょう。

第X条(目的外使用の禁止)
受領者は、開示者の書面による事前の承諾がない限り、本目的以外の目的で、秘密情報を使用してはならない。

禁止事項に違反した場合の罰則

無断漏洩や目的外使用といった禁止事項への違反行為が確認された際にどのような罰則が生じるかもしっかりと明記しておきましょう。

以下は一般的な条項例です。

第X条(差止請求)
受領者が、本契約に違反する行為を行った場合又は違反のおそれが認められる場合、開示者は受領者に対して、違反行為の差止め又は原状回復を請求できるものとする。

第X条(損害賠償)
開示者及び受領者は、本契約に関連して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、当該損害(紛争解決に要した弁護士費用及び人件費並びに逸失利益を含む。)を賠償しなければならない。

「損害賠償」に関しては、金額を予め決めておくこと(違約金)も考えられます。

有効期間・契約終了後の措置

秘密保持契約の有効期間や、やり取りした情報の契約終了に伴う返還・破棄などについても定めておく必要があります。

具体的には次のような条項です。

第X条(有効期間)
本契約の有効期間は、契約締結の日から本目的の終了までとする。

第X条(秘密情報の返還等)
受領者は、本契約が終了した場合又は開示者が要請した場合には、直ちに秘密情報を返還するか、開示者の指示に従い破棄又は消去するものとする。

また、上記の禁止事項(漏洩禁止、目的外使用禁止)や罰則規定(損害賠償)等については、秘密保持契約の終了後も一定期間は効力を残しておくと規定する場合もあります。

まとめ

以上、秘密保持契約書のポイントを解説しました。

普段から締結する機会が多い契約書の一つだと思いますので、自社ひな型を準備したり、秘密保持契約書の審査においてチェックすべきポイントを整理しておいたりすれば、業務効率化につながるはずです。

秘密保持契約書を含めた「契約書作成・審査」を効率よく進めるための体制・仕組みづくりについては下記の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧いただければと思います。

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