契約書ひな型に削除要望が入ったときの説得的なコメントの返し方を解説【コメントひな型付】

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

取引先と契約条項を交渉する際、自社の契約書ひな型のWordファイルなどを先方に送って確認してもらい、質問や修正要望を追記してもらうという方法を取ることが多いかと思います。

その際、「当該条項は削除をお願いします」とか、「当該条項は受け入れできません」と言ったコメントが返ってきて困ったというご経験はありませんか?

特に、自社の責任を限定する「免責条項」、取引先による契約違反等があった場合の「損害賠償・違約金」など、自社としては何とか残しておきたい重要条項にはこういった削除要望や修正要望が入りがちではないでしょうか。

「削除は応じかねます」とか、「弊社ルールにより修正は不可となっております」などの簡単なコメントを付けて押し返してもよいのですが、「もう少し気の利いた、説得力のあるコメントを返したい……」と思ったことはないでしょうか?

私自身も、普段接している経営者や法務担当者から、「この条項の削除に応じたくないのですが、何かうまいこと伝える方法ないですか?」と聞かれることがよくあり、毎回頭を悩ませながら返信コメントを考えています。

ということで今回は、「削除要望・修正要望への説得的なコメントの返し方」をまとめてみたいと思います。

特に修正要望が入りがちな「免責条項/損害賠償の上限額規定」「損害賠償/違約金条項」をピックアップして解説します。

どのくらい需要があるのかは正直わかりませんが、コメントの返し方に悩んだときに、何かしらのヒントや手がかりになれば幸いです。

免責条項/損害上限条項

免責条項を説得的に説明するための3つのポイント

「●●については一切の責任を負わない」、「【自社】が【相手方】に対して負う損害賠償の額は●●●円を上限とする」など、自社の責任を制限する条項を契約書ひな型に入れている企業は多いと思います。

自社が責任を負わない範囲を明確にすることにより、リスクをコントロールすることができるため、安定的に事業を進めていくうえで非常に重要な条項です。

他方、相手方からするとトラブルや契約違反が起きた際に十分な責任追及をすることができなくなってしまう可能性があるため、修正要望が入りやすい条項でもあります。

免責条項に削除・修正要望が出されがちな理由は、一方的に不利な条項だというイメージを与えてしまいがちであるということが挙げられます。

したがって、「相手方に一方的なデメリットとなる条項ではないこと」をいかにうまく伝えるかがポイントになってきます。

その際、以下の3つのポイントを踏まえれば、説得的な返答を作りやすくなります。

  1. 商品・サービスの価格・提供条件への影響
  2. 双方の役割・責任分担
  3. 将来変動する事項・外部的要因

それぞれ、以下で詳しく解説します。ぜひ参考にしてみてください。

①商品・サービスの価格・提供条件への影響

「ここまで責任を負うのであれば、この価格・条件でのサービス提供ができなくなってしまう」という趣旨を伝える方法です。

つまり、「責任を負う範囲を限定することで価格を下げているため、貴社にもメリットはありますよ」というようなニュアンスです。

例えば、次のような言い方になります。

~~~まで弊社が責任を負うとする場合、そのために●●●の調査、▲▲▲の検査等のコストを追加で要することとなり、ご提案した条件・価格でのサービス提供が難しくなってしまうため、削除はお受けいたしかねます。

どのような業種・商材でも使える表現なので、テンプレートの一つとして押さえておくと良いかと思います。

②双方の役割・責任分担

①と少し視点を変えて、双方の役割分担に着目して返答する方法です。

「責任を負う範囲を限定しているからこそ積極的なサービス提供が可能になる」という趣旨を伝えるのが最も効果的です。

特に、紹介業施策・運用の提案(コンサルティング)などをサービス内容とする取引では有効な方法です。

例えば、次のように使います。

●●●については貴社にてご判断頂くことを前提に、本取引において弊社が責任を負う範囲が▲▲▲に限られることを確認的に規定した条項になります。当該条項があることにより、弊社としても積極的な■■■のご提案を行うことができ、貴社がより多くの~~~の機会を得ることにもつながると考えております。

③将来変動する事項・外部的要因

「将来変動する事項や外部的要因によって前提条件等が変わるため、すべてについて責任を負うことはできない」という趣旨を伝える方法です。

免責条項の趣旨について説明するうえで非常によく用いられる表現ですので、この視点から説明することも有効です。

これに、①や②の視点を組み合わせるとより効果的になります。

●●●については市場や業界の動向、法令改正、~~~等様々な外的要因によって変動するため、その全てを予測することは非常に困難です。もし弊社がこの点まで責任を負うとした場合、▲▲▲の調査コストや賠償コストを価格に反映する必要があり、現在ご提案している条件でのサービス提供が困難となってしまいますので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

このように、3つのポイントを意識しつつ、自社の商品・サービスの性質にあわせてこれらを組み合わせれば、説得的に免責事項の存在意義を説明することができます。

損害賠償/違約金条項

相手方による契約違反や契約期間中の中途解約があった場合に、それにより生じた損害の賠償を請求することができるという趣旨の条項についても、修正要望が入ることが多々あるかと思います。

特に、「第●条の規定に違反した場合、違約金として金●●●円を支払う義務を負う」などの条項を設けている場合、削除や修正を求められたご経験のある方は多いのではないでしょうか。

こういった条項は、「何か理由をつけて違約金を請求してくるのではないか?」との懸念を持たれていることが多い印象です。

そのため、「なぜ違約金条項が必要なのか」をいかにうまく伝えるかが大きなポイントになってきます。

「正当な理由に基づいて設けられている条項であること」を理解してもらい、「不当に金銭を請求するための条項なのではないか?」との誤解を解けば、条項受入れや譲歩獲得に繋がるはずです。

①想定されるケースや過去の事例を伝える

どのようなケースで適用される条項なのかを伝えることは、不当な条項ではないことをわかってもらう上でとても有効です。

端的に、「以前にこういう事案があって損害を受けたため、念のため損害賠償条項を入れている」というような伝え方をしてみるのも一つの手でしょう。

以前、弊社で制作した制作物を~~~の目的に流用され、それにより弊社が損害を受けた事案がありました。このような不測の事態に対応するため、念のために当該条項を規定しております。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

ただし、コメントのやり取りの中で、「損害賠償や違約金の条項が適用される場面はこのケースに限定される」というやり取りにならないように注意する必要があります。

トラブルになった際、契約書の文言をどう解釈するかが争点となりますが、契約条項交渉中のやり取りも考慮要素となる場合があるためです。

あくまでも、一つの例として具体的なケースを伝えているにすぎず、そのケースのみに限定して適用される条項だととらえられるようなやり取りにならないように注意しましょう。

②予め金額を設定することが不可欠である理由を伝える

特に「違約金として金●円を支払う」「違約金としてサービス料金の倍額を支払う」のように予め金額を設定する条項はインパクトが強いため、削除や修正を求められることも多いと思われます。

この場合、なぜ予め金額を設定しておく必要性があるのかを伝えることが重要です。

以前に弊社を介さずに直接顧客と契約し、弊社への紹介料を免れようとされた事案があったため、当該条項を規定しております。なお、「紹介料と同額を請求する」との内容では、違反があった場合にも本来支払うべき紹介料を支払えば足りることとなり、違反に対する抑止力が弱くなるため、「倍額を請求する」との文言と規定しております。

上記のケースでは「違反行為に対する抑止力が弱いこと」を必要性の理由に挙げていますが、そのほか、「損害額の立証が極めて困難であること」などを記載したほうが説得的な場合もあるでしょう(競業行為や営業秘密侵害に対する違約金条項など)。

③中途解約時の解約金条項

少し話は変わりますが、「本契約を契約期間中に解約する場合、解約金として●ヶ月分の●●料を支払う」「契約期間の残存期間分全額の●●料を支払う」など、契約を中途解約する際に解約金を請求できると定める条項についても、削除や修正要望が入る場合があります。

こういった条項については、「一定期間は契約を継続してもらう必要があること」を説得的に伝えることがポイントです。

例えばフランチャイズ契約書における解約金条項であれば、次のような言い方になるでしょう。

早期撤退が発生してしまうと当グループ全体のイメージ・信用に影響するおそれがあるため、最低でも●年間は運営を継続頂くことを条件としておりますので、申し訳ございませんが削除は受け入れかねます。

このほか、サブスク型のサービス等であれば、「一定期間利用を継続してもらうことを前提に価格設定していること」を理由に挙げたり、コンサルティングや広告運用代行などの場合は「効果が測定できるようになるまで一定期間を要すること」を理由に挙げることが考えられます。

まとめ

いかがだったでしょうか?

ここでご紹介したのはあくまでも一つの例であり、実際にどのようなコメントを返すかは取引の内容や背景、その条項の内容等様々な事情を踏まえて検討する必要はありますが、それを考えるうえでの一つの材料・たたき台にでもして頂ければ幸いです。

また、「こういう条項についてはどのようにコメントを返すべき?」などがありましたら是非教えてください。

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