「顧客紹介契約書」「代理店契約書」のポイントとひな型を解説

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

今回は、「顧客紹介契約書」「代理店契約書」のポイントを解説していきたいと思います。

新規顧客の開拓を行うにあたっては、第三者に見込顧客の紹介を依頼したり、自社サービスの代理店として営業活動を行ってもらったりすることが有効な施策の一つとなります。
しかし、顧客紹介や代理店契約では、どのような条件を満たせば報酬が発生するのかについて両者の認識がズレていたり、代理店が不当な営業活動を行って顧客とトラブルになるなどの問題が生じることがままあります。

そこで、顧客紹介や代理店を依頼するにあたって、契約書でどのような内容を定めておくとよいかについて解説していきます。

代理店とのトラブルを防ぎ、効率的に新規顧客の開拓を行いたいと考えている方はぜひ最後までご覧下さい。

「顧客紹介契約」「代理店契約」とは? その区別は?

「顧客紹介契約」とは、その名の通り、新規顧客(見込顧客)の紹介を第三者に依頼する契約のことを指します。
具体的な商談実施や契約締結までは関与せず、見込顧客の情報提供や引き合わせなどあくまでも「紹介」を目的とすることが一般的です。

他方、「代理店契約」とは、商談の実施や契約締結、場合によっては代金回収やカスタマーサポートまでを含め、営業活動全般を自社の代わりに行うことを依頼する契約を指すことが一般的です。

もっとも、「顧客紹介契約」であっても、サービス内容等についての見込顧客への説明を義務にすることもあれば、「代理店契約」という名称であっても、代理店が顧客との契約締結を行う権限が与えられていない場合もあり、両者の区別は必ずしも明確なものではありません

そのため、「顧客紹介」や「代理店契約」との文言だけでは、具体的な業務についてのイメージが合致するとは限らないのです。

したがって、紹介者・代理店側がどこまでの活動を行う権利・義務があるのか、どのような条件を満たせば報酬が発生するのかを事前に明確にし、認識を共有しておくことが、スムーズに取引を進めるうえでの非常に重要なポイントとなります。

顧客紹介契約・代理店契約の5つのポイント

①権限・業務の範囲を明確にすること

上記でも述べたように、単に「顧客紹介」「代理店」等の文言だけでは、具体的にどこまでの範囲の業務を委託するのかが必ずしも明確ではありません。

そのため、紹介者・代理店側に与えられている権限はどこまでか、何をすれば義務を果たしたと言えるのかを明確に定めておくことが必須です。

この点は、どのような場合に報酬が発生することになるかを明確にするうえでの出発点にもなりますので、非常に重要な事項です。

以下、顧客紹介、代理店契約それぞれにつき条項例を紹介します。

条項例(顧客紹介の場合)

第X条(紹介業務)
1.見込顧客を紹介する場合には、見込顧客からその住所、会社名、担当者その他の情報を委託者に開示することについて承諾を受けた上で、委託者が指定した書式により当該見込顧客の情報を委託者に通知する。
2.紹介者は見込顧客に対して、本サービスの利用契約を締結するか否かは委託者の裁量による旨を伝えなければならない。

第X条(見込顧客との契約)
委託者は、紹介者から紹介を受けた見込顧客につき、自己の裁量により、本サービスの利用契約を締結するか否かを決定することができる。

条項例(代理店契約の場合)

第X条(販売代理)
1.代理店は、見込顧客に対し、自己が本サービスに関する委託者の販売代理店であることを委託者指定の方法に従い説明し、明示しなければならない。
2.代理店は、販売代理につき、委託者が指定する契約書を用いて、委託者の指定した方法に従い、契約締結業務を行うものとする。なお、代理店は、委託者の事前の書面による承諾なく、契約条件及び契約書の内容を変更することはできない。

以上はごく一般的な条項例です。

これに加えて手続きの実施や条件の追加を求める場合(例えば、自社の承諾がない限り契約締結は不可など)には、その旨を明確にして追記する必要があります。

どのような条項が適切かは商品・サービスの特性や現場担当者の負担等も考慮して設定する必要があるため、慎重に検討しましょう。

②成果地点・報酬発生条件を明確にすること

紹介や販売代理が実施された後、どのような条件を満たせば報酬支払の対象となるかも明確にしておく必要があります。

顧客紹介契約では、紹介された見込顧客と成約に至った時点でその成約金額の一定割合を紹介報酬とするという取決めを行うことが多いと思われます。
このパターンでは、「紹介された見込顧客が、実は元々アプローチをしたことがある相手だった」「紹介された直後は成約に至らなかったが、半年後に再度問い合わせがあり、成約に至った」「紹介時とは別のサービスを購入した」など、紹介報酬の対象になるのかならないのか微妙なケースが発生することがままあります。
また、「成約はしたが、入金に至らなかった」「後日返金が発生した」などの場合に、紹介報酬にどう影響するのかという問題も生じます。

したがって、「報酬が発生する場合としない場合」をきちんと定義し、共有しておくことが必要となってきます。

以下、顧客紹介契約における報酬(紹介手数料)の条項例を紹介します。

第X条(紹介手数料)
1.委託者は、紹介者に紹介された見込顧客との間で本サービス利用契約が成約し、かつ委託者が当該見込顧客から本サービスの代金を受領するに至った場合(以下「成約案件」という。)、紹介者に対し、本件業務の対価として以下に定める紹介手数料を支払うものとする。
紹介手数料:成約案件1件につき、金●●●●円(税込)
2.次の各号のいずれかに該当する場合には、委託者は紹介手数料の支払い義務を免れるものとする。
(1) 紹介者が委託者に見込顧客を紹介した時から●か月以内に、委託者と当該見込顧客との間で本サービスの利用契約締結に至らなかった場合
(2) 委託者が当該見込顧客からの代金受領に至らなかった場合
(3) 委託者が紹介者から見込顧客を紹介された時点で、既に委託者から当該見込顧客に対して本商品の提案を行っていた場合
(3) 委託者が紹介者から見込顧客を紹介された時点で、既に他の紹介者から当該見込顧客の紹介を受けていた場合
3.成約案件に関する契約が解除され、委託者が当該顧客に対して代金を返金した場合、紹介者は当該成約案件に係る紹介手数料を請求する権利を失い、すでに受領していた場合には直ちに委託者に返還する義務を負う。

代理店契約の場合も同様に、報酬が発生する場合としない場合を明確に定める必要があります。

ただし、代理店契約においては、顧客からの代金回収を自社が行うのか、代理店側が行うのかによって金銭の流れが大きく異なるので注意が必要です。

前者(代金回収を自社が行う)の場合は、顧客からの代金回収後に所定の販売手数料を代理店に対して支払うという流れになりますので、上記の紹介手数料の定めと同様の規定で問題ないでしょう。

他方、後者(代理店が代金回収を行う)の場合には、代理店が顧客から受領した販売代金から代理店の利益分を確保したうえで自社に送金してもらうという流れになります。

具体的な定め方としては、顧客への販売価格のうち一定割合を販売手数料として代理店が確保し、残額を送金してもらう方法と、代理店が顧客に販売した際に自社に支払ってもらう金額(卸値や仕切価格などと呼ばれます)を予め決めておく方法(この場合、顧客への販売価格と卸値との差額が代理店の利益となる)の2パターンがあります。

いずれにせよ、報酬発生条件や金銭の流れは双方にとって最重要の事項です。実態に沿った条項にしておかないと後々のエラーに繋がりかねませんので、安易にひな型を流用せず、慎重に条項を検討する必要があります。

紹介(送客)した時点で報酬が発生すると定める場合は?

以上では紹介後に成約に至ったことを条件に報酬が発生する場合を想定して解説しましたが、これに対して、紹介後に成約に至ったかどうかにかかわらず、顧客紹介をした時点で報酬が発生するという決め方をすることも可能です。
(この場合、「顧客紹介」よりも「送客」という言葉が用いられることが多い気がします。)

このパターンでは、「サクラだった」「自社サービスのターゲット層ではなかった」「実はあまり商品・サービスに関心がなかった」などのような場合にも報酬が発生するのか?という問題が生じます。

したがって、報酬の対象となる見込顧客とはどのような者を指すのかをできる限り明確に定義し、共有しておくこと(リード定義)が重要です。

なお、リード獲得や送客を目的とする場合、その手段として広告運用やSNS運用などを実施してもらうことを前提としていることが多々あります。

その場合、広告運用にあたって必要な事項(広告費の負担、広告物の事前チェック、各種広告規制の遵守義務など)を定めておくことが必要となります。
したがって、「広告代理店契約書」を作成し、一定の条件を満たした見込顧客を送客したことを条件に業務委託費を支払うという報酬体系を設定したうえで締結する方がより適切だと思われます。

  • 「ネット広告代理店契約書」については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

③勧誘方法・営業活動に関する遵守事項

紹介者・代理店による違法・不正な営業活動や、それに基づく見込顧客とのトラブルを防止することも非常に重要です。

より詳細に分解すると、①違法・不正な営業活動を禁止する条項と、②見込顧客等とのトラブルは紹介者・代理店の責任により解決すべき旨を定めることが必要となります。

例えば、以下のような条項を設けることが考えられます。

第X条(販売活動における遵守事項)
1.紹介者は、委託者から指示があった場合、名刺、ホームページ、SNS、第三者に開示する文書、資料等に紹介者であることその他委託者から指示された事項を明示しなけれならない。なお、いかなる場合にも紹介者は、委託者の名称等を紹介者自身を表すものとして使用してはならない。
2.紹介者は、適用ある法令及びガイドライン等に従い適切に本件業務を行うものとし、本サービスに関して、委託者が提供した情報と異なる説明をし、又は誇大広告、不当表示、二重価格表示等をしてはならない。
3.紹介者は、委託者及び本サービスの評判若しくは信用を毀損する行為をしてはならない。

第X条(クレーム対応)
本件業務に関連して、見込顧客その他の第三者から本サービスについてクレームを受け又はそれらの者との間で紛争が生じた場合には、紹介者はただちにこれを委託者に報告するとともに、紹介者の費用と責任でこれを解決するものとし、委託者からその対応につき指示があるときはそれに従うものとする。

ちなみに、以上の条項のうち、「紹介者は、委託者の名称等を紹介者自身を表すものとして使用してはならない」という部分は、いわゆる「名板貸責任」を意識したものとなっています。

名板貸責任とは、自社の商号(会社名)を第三者に使用させて営業活動等を行わせた場合、その第三者と連帯して責任を負う場合があるというルールのことを指します(商法第14条、会社法9条)。

したがって、紹介者・代理店は自社に所属する従業員等ではなく、あくまでも紹介者・代理店として自社とは独立して活動を行っていることを明確にさせる必要があります。

④競合サービスの取扱いなど

意外と忘れがちなのが、競合サービスの取扱いに関する条項です。

つまり、自社に紹介してもらった見込顧客を、自社以外の類似サービス・競合他社にも紹介することを許容するか否かや、そもそも紹介者・代理店が自社以外の競合他社との間で顧客紹介や代理店の依頼を受けることを許容するか否かという問題です。

自社の立場からすれば、自社サービスの営業・勧誘に全力を注いでもらいたいと考えるのが通常かと思われます。
他方、紹介者・代理店の立場からすれば、様々な商品・サービスをラインナップできる方が積極的に営業活動を行うことが可能になります。
このように、競合サービスの取扱いは両者の利害が対立する典型的な局面の一つであると言えます。

そのため、この点につき詳細を詰めないまま営業活動をスタートした結果、後々トラブルになったというケースをしばしば目にします。

実際に競合サービスの取扱い禁止を契約書に盛り込めるか否かは紹介者・代理店側の事情やその他の条件面にもよると思われますが、もし希望するのあれば契約書ひな型に盛り込み、相手方と交渉できるようにしておきましょう。

第X条(競合サービスの取扱い)
紹介者は、委託者の事前の書面による承諾がない限り、委託者へ紹介した見込顧客を、本サービスと競合又は類似並びにそのおそれがある事業を営む第三者に対して紹介・あっせんしてはならない。

⑤情報共有

例えば顧客紹介の場合、紹介された見込顧客と成約に至った場合に報酬対象となる等と定めることになりますが、成約に至ったか否か、金額がいくらかといった点について紹介者は直接知ることができません

そのため、成約の可否や金額等について両者が情報共有を行うための方法もきちんと決定しておく必要があります。

この点が曖昧だと、「多数の紹介を行っているのに成約がこの程度しかないのはおかしい。中抜きをしているに違いない。」などと言ったトラブルに発展してしまう可能性があります。

最もオーソドックスなのは以下の条項例にも示す通り、成約件数や代金について報告義務を定めておく方法です。

第X条(情報提供)
1.委託者は、紹介者から紹介を受けた見込顧客との間で本サービス利用契約の締結に至った場合、遅滞なく紹介者に報告する。
2.委託者は、紹介者に対し、毎月末日締めにて、本サービス利用契約の締結に至った見込顧客からの代金受領額を集計し、翌月●日までに報告する。
3.委託者は、紹介者から前2項に定める事項に関する根拠資料の開示の求めを受けた場合、遅滞なくこれに応じるものとする。

このほか、スプレッドシートやアプリ等を用いて見込顧客に関する進捗を管理し、両者が閲覧できるような状態にしておくなどの方法が取られることもあります。

いずれにせよ、適切な情報共有が顧客紹介や代理店契約をスムーズに進めるためのポイントになりますので、慎重に協議して契約書にも記載するようにしておきましょう。

まとめ

以上、顧客紹介・代理店契約書を作成するうえで特に注意しておきたいポイントを解説しました。

一口に顧客紹介・代理店と言っても両者の役割分担や報酬発生条件は一義的ではなく、契約書を作成する際も慎重に条項を検討する必要があることが少しでも伝われば幸いです。

スムーズに事業を進めていくためには、自社として顧客紹介や代理店を依頼する際の条件を整理し、契約書ひな型を作成しておくことが有効です。
また、個々の相手方と条項の交渉・調整を行っていくことが想定されるため、どこまで譲歩してよいか、どのように条項を修正すべきかなどを相談できる窓口を確保しておくことも重要です。

これらの点については、ベンチャー企業にとって必要最小限度の「ミニマル法務部」を立ち上げて運用するための方法を以下の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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