「人材紹介契約書」のポイントとひな型を解説【人材紹介会社向け】

こんにちは。ルースター法律事務所 代表弁護士の山本です。

今回は、「人材紹介契約書」のポイントを解説していきたいと思います。

人材紹介業をこれから始めようとしているが、契約書をどうすればいいのかわからないという方、普段クライアントから提示される契約書を締結することが多いが、どのあたりがポイントなのかイマイチわからないという方、すでに自社で使用している契約書ひな型に問題ないのか確認したいという方など、人材紹介業の契約業務に関わる方はぜひ最後までご覧いただければ幸いです。

人材紹介契約書とは?

この記事では、人材紹介契約書=求人企業(クライアント)への人材紹介・あっせんを目的とする取引に関する契約書であって、人材紹介に関する基本的な事項を求人企業との間で定めることを目的として締結する契約書を想定しています。

具体的には、紹介手数料の決め方や早期退職時の返金規定などが書いてある契約書のことです。

「職業紹介契約書」「採用コンサルティング契約書」など、別のタイトルが用いられることもありますが、内容が大きく変わるわけではありません。
ここでは、呼び方を「人材紹介契約書」に統一して、ポイントを解説していきます。

人材紹介契約書のポイント

人材紹介契約書を締結するうえで特に注意しておきたいポイントは、大きく分けて次の4点です。

  1. 紹介料に関する条件(返金規定含む)が正しく記載されているか?
  2. 自社がどこまで責任を負うか(あるいは負わないか)が明記されているか?
  3. クライアント側の禁止事項・注意事項を不足なく規定できているか?
  4. その他必要な条項は明記されているか

以下、それぞれにつき詳しく解説していきます。

なお、契約期間、解除、損害賠償、個人情報保護、秘密保持など、他の契約書とも共通する事項についての解説は割愛し、人材紹介契約書において特に注意すべきポイントとしてまとめていますので、その点はご留意ください。

紹介料に関する条件(返金規定含む)が正しく記載されているか?

クライアント企業からの人材紹介料を正しく徴収することは、人材紹介会社の法務の根幹になります。

契約書の定め方が十分でないために人材紹介料を取り損ねたというケースもよく目にします。以下のポイントに注意して、しっかりと守りを固めておきましょう。

① 紹介料の金額・算定方法
紹介料は、定額制(人材1名につき●円というような定め方)か、変動制(人材の理論年収の●%というような定め方)のいずれかが採用されることがほとんどです。「紹介報酬」や「コンサルティングフィー」等、これとは異なる呼び方をするケースもあります。
いずれにせよ、商談で成立した条件が正しく契約書に反映されているかをきちんと確認しておくことは、一見当たり前のようですがとても重要です。商談の時よりも低い条件が契約書に記載されていたのに気づかないまま締結してしまい、紹介料を損してしまったというケースも割と見かけますので、しっかりとチェックしましょう。

② 紹介料の発生時点
いつのタイミングで紹介料が発生するかという点です。
新卒人材の場合は「内定承諾日」、中途人材の場合は「入社日」がベースになっていることが多いと思われます。
これに対し、早期退職の場合は紹介料が発生しないことを前提に、「入社から●ヶ月を経過した時点」というように紹介料発生のタイミングを後ろ倒しにするよう求められるケースもあります。
早期に紹介料を回収できた方がキャッシュフローの安定につながりますので、なるべく早めの時点とするように交渉した方がいいでしょう。
また、この点は後ほど解説する「返金規定」とも関連しますので、そちらもご覧ください。

③ 不採用時の処理
人材紹介会社から紹介を受けた時点では不採用とし、期間を開けて改めて採用するという方法により、「紹介による採用ではないから紹介料の対象ではない」などと主張してくる企業がたまにいます。
これを防ぐためには、「紹介後1年以内に採用を行った場合は人材紹介の成立とみなす」と言った条項を入れておくと効果的です。

④ 重複応募の処理
また、似たような話として、「たまたま別ルートで応募のあった人材であり、貴社の紹介による採用ではない」と主張されるケースもまれにあります。
これを防ぐためには、「人材を紹介した後に、当該人材につき他の手段により応募があった場合には、当方の紹介による応募を優先する」と言った条項を入れておくと良いでしょう。
特に、クライアント側から提示される人材紹介契約書にはここまで細かい事項は記載されていないことが多いため、念には念を入れてなるべく追記を求めるようにしたいところです。

⑤ 返金規定
内定承諾後の内定辞退や入社後の早期退職などが発生した場合、紹介料を一定の割合で減額(返金)するという条件が設定されることがあります。
もちろん、このような条項はないに越したことはありませんが、ほとんどの場合は設定を求められると思います。
まずは、商談で設定した条件(期間と減額の割合)が正しく契約書上に反映しているかはきちんと確認しておきましょう。
また、返金の原因となる事由をなるべく限定することも重要です。例えば「●ヶ月以内に退職した場合」だけだと、クライアント側に非がある退職(パワハラや雇用条件と異なる労働をさせた)の場合も返金対象に含まれることになってしまいます。
したがって、「自己都合により退職した場合に限る」や「雇用主の責めに帰すべき事由による退職を除く」等の限定を加えておくことが必要です。

⑥ 証拠資料の提出義務
内定通知書、採用通知書、承諾書、労働条件通知書など雇用時の各種書類や、内定辞退通知書、退職届、解雇通知書と言った退職時の書類など、証拠となる資料の提出を義務付ける条項も入れておきましょう。これがないと入社や退職の正確な日付や退職理由が突き止められず、返金を巡る交渉で不利になる可能性があります。

自社がどこまで責任を負うか(あるいは負わないか)が明記されているか?

紹介した人材が内定辞退や早期退職をしてしまった場合のほか、資質や能力の点で問題があった場合、会社でトラブルを起こしてしまった場合などには、「適切な人材紹介やサポートを実施しなかった紹介会社の責任である」などとしてクレームに発展してしまうケースがあります。
中には、このようなトラブルを理由に紹介料の減額や免除を求められたり、損害賠償を要求されることもあります。

このような場合に、過剰に責任を負わされてしまうことを防いだり、相手企業との交渉を有利に進めるためには、人材紹介契約書で「自社がどこまで責任を負うか、あるいは負わないか」を明確にしておくことが重要です。

以下、定めておくといざという時に役立つ条項を3つご紹介します。

① 応募書類の免責/資質や能力の非保証
履歴書その他の応募書類は応募者の責任において作成されるものであり、紹介者は責任を負わない」、「紹介者は、応募者の資質、能力など応募者に関する保証は行わない」といった条項です。
人材紹介では、紹介会社にできるのはあくまでも紹介までであり、資質や適性等の最終判断は相手企業が行うことが前提となります。このような前提を契約上も明確にしておくことにより、後日応募者の適性などを巡ってクレーム等に発展することを防止するのに役立ちます。

② 採用過程に責任・義務を負わないこと
内定辞退や早期退職があった際、「紹介した人材へのアフターフォローが不十分だったのではないか」などのクレームが寄せられるケースがあります。
このようなクレームを防ぐためには、「紹介者は応募者の選考、採用及び採用後のフォロー等について義務を負わない」といった条項を入れておくと効果的です。

③ 相手方企業と応募者との間のトラブルについて責任を負わないこと
読んで字のごとく、「相手方と応募者その他の第三者との間の紛争については一切の責任を負わない」という条項です。
このような条項を入れておくことにより、紹介した人材が先方企業でトラブルを起こしてしまったときなどに、クレームに発展してしまうことを防ぐのに役立ちます。

クライアント側の禁止事項・注意事項を適切に規定できているか?

紹介料の解説の部分でも触れましたが、相手方企業の中には、様々な方法により紹介料の支払いを免れようとする企業がいることも事実です。
こういった企業に適切に対応するためには、クライアント企業側の禁止事項や注意事項を適切に規定しておく必要があります。

具体的には、「直接連絡・採用の禁止」、「紹介料を不当に免れる行為の禁止」と、「違約金条項」を入れておくことが非常に効果的です。

① 直接連絡・採用の禁止
紹介料の発生条件である内定承諾や入社、返金事由の有無などを正確に把握するためには、人材会社を通じて連絡を取り合ってもらうようにすることが効果的です。
そのため、「相手方は、紹介者の同意を得ることなく、応募者と直接連絡を行ってはならない」というような条項を入れておくと良いでしょう。こうすることにより、応募者と先方企業が口裏を合わせて紹介料を免れようとする行為を防止することにもつながります。

② 紹介料を不当に免れる行為の禁止
上記で触れた口裏合わせなどを含め、「虚偽の報告」「紹介手数料の徴収を妨げる行為」を禁止する条項を入れておきましょう。
このとき、「徴収を妨げる行為」「不当に免れる行為」など、あえて抽象的な文言(意味を広く解釈できる文言)を入れておくことがポイントです。こうすることにより、想定していなかった手口や主張をされた際にも違反を指摘しやすくなります。

③ 違約金条項
②の条項とセットで、「違約金条項」を設定しておくことも重要です。
例えば、「虚偽の報告や不当に紹介手数料の徴収を妨げる行為があった場合、紹介手数料の倍額を違約金として請求できる」というような内容です。
この点、不当に免れる行為があった場合でも、「人材紹介の成立とみなして紹介手数料を請求できる」と定めている契約書をたまに見かけますが、これではあまり抑止力になりません。「バレても紹介手数料を払えばいいだけ」と思われてしまう可能性があるためです。
違約金条項は実際に請求するよりも、不当な行為の抑止力として機能してもらうことが大きな役割になります。したがって、倍額以上の違約金を設定しておき、「不正な行為をしたら損をする」と思わせることが重要です。

その他必要な条項は明記されているか

その他、定めておくとトラブル予防に役に立つ条項を挙げておきます。
必要に応じて入れておきましょう。

・先方企業の求人情報につき、自社の提携先、委託先に情報提供をすることの承諾条項
・先方企業の求人情報を、各種求人サイト等に登録したり、求人情報を公開したりすることの承諾条項
・応募者につき併願(別の企業に応募)することがあり得ることの承諾条項

まとめ

以上、人材紹介契約書を締結するうえで特に注意しておきたいポイントを解説しました。

まとめると、人材紹介契約書を作成したり、相手方企業の契約書をチェックする際には、

紹介料に関する条件(返金規定含む)が正しく記載されているか?
自社がどこまで責任を負うか(あるいは負わないか)が明記されているか?
クライアント側の禁止事項・注意事項を不足なく規定できているか?
その他必要な条項は明記されているか

に特に注意して頂ければ、後々のトラブルの予防に繋がると思います。

また、契約書ひな型の作成や先方の提示した契約書のチェック等、契約書に関する業務を効率よく回すための仕組みづくりについては、ベンチャー企業にとって必要最小限度の「ミニマル法務部」を立ち上げて運用するための方法を以下の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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